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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 前田日明と「リングス」の曳航(最終回)
リングス旗揚げ30周年記念 短期集中連載『天涯の標』

【格闘王・前田日明と「リングス」の曳航 最終回】格闘界に放たれた進化する遺伝子たち

ゴッチ式トレーニングの真価

前田自身を超えるヘビー級選手は生まれるのか(写真=原悦生)

 リングスが歩みを始めた1991年、バブル崩壊直後よりもこの国の経済状況はさらに厳しくなったかに見える。ましてや格闘技界は決して安閑とはしていられない。むしろ瀬戸際だ。それでも、リングスの再開を待ち望むファンはいる。

 〈 リングスを今やったら、とんでもない資金がかかりますよ。当時、ロシア人選手が初参戦で最低ギャラは1000ドル(当時の為替相場で約12万4000円)ですから。

 でも、今だったら、かからなくなったお金もあるんです。当時、冷戦構造下でロシアはココムをはじめ共産圏に対する規制の枠組みに引っかかっていた。ビザの部分で受け入れ先がしっかりしていることが条件。ビザの最低期間が2週間だったんです。その間、食事や宿泊のケアをしてやんなきゃいけなかった。今はそういうものはなくなりました。

 でも、ギャラの部分で言うと、10倍以上です。それを考えると、ちょっと難しい。よっぽどしっかりしていて、継続的で強力なスポンサーがいない限りはね。 〉

 かつてのリングス・ジャパンの選手たちと、HERO’S以降にコーチした宮田和幸や所英男、あるいはTHE OUTSIDERの選手たち。前田との距離はそれぞれ微妙に違って見える。

 〈 俺が本当に教えたのは宮田と所です。現役のときは教える余裕がなかった。全く教えなかったわけじゃないけど、彼らほどは教えてません。

 ゴッチ式トレーニング(前田の師「プロレスの神様」カール・ゴッチが編み出した独特の鍛錬法)、所はもう全然やってないでしょう。宮田の「BRAVE GYM」では一番きついトランプトレーニング(トランプを1枚ずつ引き、マークや数字によって種目・回数をこなす鍛錬法)を今でもプロの選手に定期的にやらせている。

 トランプってどうにでもできるんですよ。種目と回数の設定を変えるだけですから。宮田のところでやってるのは一番きつい部類。だから勝率がいいんです、BRAVEは。〉

 リングス自体の再興が難しいとすれば、せめて選手育成はどうだろう。ゴッチイズムを継承するヘビー級の総合格闘技選手。前田の内にある火は今も燃えているのだろうか。

 〈 ありますね。やっぱりヘビー級ですよ。軽い階級でいくら「わーっ」となってもね。格闘技業界内で話題にはなるけど、世の中全体でブームにはならない。本当のブームを呼ぼうと思ったら、やっぱりヘビー級ですよ、ヘビー級。

 重量級でしっかりしたブームをまず作り、人気を得る。で、そっから脚を伸ばすように中量級、軽量級とやったら、全体がばっと上がるんです。でも、中量級、軽量級から上に持っていけるかといったら、できません。残念ながら。そのためにもヘビー級の人材が必要なんです。〉

 前田の前には今も喪失と欠落が横たわっている。だからこそ、まだ踏み出せるだろう。

 輪の中心には何があるのか。喪失や欠落、特には錯誤さえも抱きとめて円を描く。輪とはそんな図象である。リングスにはそれぞれの輪を抱えた者たちが集まり散じた。

 運動体としてのリングスは終わらない。前田が「石」を投げ続ける限りは。喪失と欠落を恐れず、志向と思考、試行を手放さない者がいる限り、リングスの物語は常に新しい。

(完)

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片田直久(ジャーナリスト)

1968年宮崎県日向市生まれ。出版社、編集プロダクション勤務を経て、現在はインディペンデントとして政治や医療、経済、抵抗文化などの分野で企画・取材・執筆・編集に携わる。渡世上の師は作家・大下英治。2020年よりYouTube「前田日明チャンネル」で合いの手を担当。現在、「リングス」について鋭意取材敢行中。日本ジャーナリスト協会運営委員。著書に『タモリ伝』(コア新書)。

かただなおひさ

最終更新:2021/07/30 11:50
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