菅義偉首相が“なかった”ことにする「天皇陛下の五輪憂慮発言」
#週刊誌スクープ大賞
フライデーに掲載された「菅、ハマのドン、小此木」の3ショット
話を変えよう。菅首相は哀れというより“無残”といったほうがいいかもしれない。
大博打を打った東京五輪開催は、感染者は増え続け、外国から来る選手団に早くも陽性者が出て、有観客でやるのは難しくなってきた。そのため、組織委が観戦チケットについては6日に予定していた再抽選の結果公表を延期することを検討しているようだ。
追い詰められる菅首相だが、フライデーに菅のカジノ構想に反対している“ハマのドン”藤木幸夫と、国家公安委員長などを辞任して横浜市長選に出馬を表明した小此木八郎の3人が写っている写真が載っている。
小此木は菅が秘書を長年務めた小此木彦三郎の三男で、彼もカジノ反対派である。小此木の出馬はいろいろ取り沙汰されてはいるが、フライデーは、「菅さんが『横浜カジノは一旦、棚上げでもいい』と考えていて、両者の『手打ち』という意味があると思われます」(自民党関係者)と見ているようだ。
菅にとってはカジノどころではないというのが正直なところだろう。五輪後に再選を果たして、その後にじっくりカジノを進めようという魂胆であることは間違いない。しつこさではこの男の右に出る者はいないから、万が一にも諦めるようなことはしないはずだ。
さて、“知の巨人”といわれた立花隆の追悼特集を文春が巻頭でやっている。
立花といえば、文藝春秋(1974年11月号)に書いた「田中角栄研究―その金脈と人脈」が最も有名だ。これが今でも「調査報道の金字塔」といわれるのは、すでに公になっている政治資金報告書、報道された新聞、雑誌記事、大蔵省発行の「財政金融統計月報」、国会の議事録を取材記者たちに集めさせ、それを読み込んで田中の裏金づくりの手法を浮かび上がらせたからである。
文春で、週刊朝日で「田中新金脈研究」を立花とともにやった蜷川真夫がこういっている。
「よく『当時の新聞記者はあの程度の事はみんな知っていたけど書かなかったんだ』と言われるじゃないですか。あれは間違いです。(中略)一つずつファクトを詰めて検証する作業をやった人は立花さん以外にいなかった」
立花の取材の基本は、「その人が書いているものは最低でもぜんぶ読んでいく」ことだった。文春には、ノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進にインタビューしたときのことが書かれている。
利根川が「たしか何かの論文で」というと、「先生がおっしゃる論文は××ですか」と英語の論文をさっと挙げる。利根川はワシのあの論文も読んでいるのかと驚き、立花に心を開き手の内を明かしてくれたそうだ。
未知のことを知りたいという彼の真骨頂は、2007年に自身ががんを宣告されたときだった。旧知のNHKディレクターに電話をかけ、「キミ、撮りに来ないか」といった。落ちこんでいるかと思ったら、むしろ興奮していたというのである。
私は、彼がゴールデン街で「ガルガンチュア立花」をやっていた時から知ってはいるが、気難しくて近寄りにくい人間だと思っていたので、一度も仕事をしたことはない。彼のほうも「このバカ編集者」と思っていたはずだ。
彼の追悼を読みながら、書かれざる立花隆があると思った。たしかに角栄研究はその後の調査報道に大きな影響を与えた。だが、当時の田中健五編集長は、この号が完売しても増刷をしなかった。これをまとめた単行本は、なぜか講談社から出版された。噂に過ぎないが、田中編集長が発売前に角栄側と話し合っていたともいわれている。
立花がやはり文藝春秋で連載した「日本共産党の研究」も単行本は講談社であった。
立花は元文藝春秋社員ということもあり、週刊誌ジャーナリズムの擁護者であった。
週刊文春が田中真紀子の娘のことを取り上げたとき、田中がプライバシー侵害だと訴え、東京地裁が仮処分を決定した(後に取り下げられた)ことに怒りを覚え、一気に書いたという『「言論の自由」vs.「●●●」』(2004年・文藝春秋)の中に、こういう一節がある。
「今の日本で誰が一番マックレイカー(堆肥をかき回す道具)の役割を果たしているかというと、新聞の社会部、テレビの社会派調査報道番組、週刊誌である。(中略)
低俗であることは、言論の自由を問題にする場合、いかなる意味でも、いささかの制約要因にもならないし、なってはならないのである。いかなる言論もすべてが守られるべきである。問題はむしろ、個々の言論の表現方法、表現内容に不当性があるかどうかである」
立花は、東大でも講義をし、次の世代を育てようとした。だが一面、新しく出てきたノンフィクションの書き手にはやさしくなかったと、当時、立花と一緒に大宅ノンフィクション賞で選考委員をやっていた知人のライターに聞いたことがある。
私が読んだ彼の本は、角栄研究を除けば『アメリカ性革命報告』(1984年・文藝春秋)だけしかない。遅まきながら、彼の何冊かの本を本棚から取り出して、立花隆という人間が後世に何を遺したのか、遺そうとしたのかを考えてみようと思っている。合掌。
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