令和日本は「鎖国」状態が続いたままだった!? 難民申請をめぐるドキュメント『東京クルド』
大きな主語に呑み込まれていく個人
波風の立たない、分かりやすい笑いを求める日本のテレビ業界とお笑い芸人・村本との間に大きな溝が生じていることを『村本大輔はなぜテレビから消えたのか?』は浮かび上がらせていた。テレビ業界での居場所を失った村本と、生まれ故郷だけでなく日本でも居場所を得ることができない難民たち。日向監督がカメラで追っている対象には、どこか共通項があるように感じられる。
「村本さんのネタに『透明人間』というのがあるんです。台風で避難所にホームレスが来たところ、住民票を持っていないという理由で入らせてもらえなかった。実際に都内であった事件です。住民票のないホームレスの姿は、住民票を持っている一般市民には見えなかったわけです。『東京クルド』と『村本大輔はなぜテレビから消えたのか?』に共通項があるとすれば、個人と社会との関係性を描いているということかもしれません。自分という個人を認められないと、民族や宗教という大きな主語の中に呑み込まれてしまいがちです。日本でも居場所を見つけられず、不法滞在者扱いされている若者たちは、やがて民族闘争の中に取り込まれてしまうんじゃないか。取材した彼らのことが、僕は心配でした。一般市民としての立場に安住していると、そこにいるのに姿が見えない人たちがいる。そのことを知ってほしいし、個人が社会とどう向き合うかという問題は日本人にとっても重要ではないでしょうか」(日向監督)
青春映画の多くは、若者たちが夢に破れ、挫折する姿が描かれる。でも、そこから立ち上がることで、彼らの人生が始まる。ラマザンとオザンには、シビアな青春を描いた本作の上映が終わった後も、人生という名の現実のドラマをどうか前向きに進んでほしい。
(文=長野辰次)
『東京クルド』
監督/日向史有 撮影/松村敏行、金沢裕司、鈴木克彦 編集/秦岳志
配給/東風 7月10日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラム、大阪・第七藝術劇場ほか全国順次公開
(c)2021 DOCUMENTARY JAPAN INC
https://tokyokurds.jp
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