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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】 vol.642

令和日本は「鎖国」状態が続いたままだった!? 難民申請をめぐるドキュメント『東京クルド』

出口の見えないシビアな青春

令和日本は「鎖国」状態が続いたままだった!? 難民申請をめぐるドキュメント『東京クルド』の画像2
2015年にトルコ在日大使館前で起きた乱闘事件。機動隊も出動する騒ぎとなった。

 ラマザンは通訳になる夢を叶えるために専門学校に通うことを希望するが、「仮放免」というラマザンの立場をきちんと理解した上で、入学を認めてくれる学校はなかなか見つからない。オザンには「芸能人になりたい」という秘かな夢があった。パリッとしたスーツを着込み、外国人タレントの芸能事務所を訪ねるオザン。イケメンで人懐っこい性格のオザンに、テレビのバラエティー番組出演のオファーが持ち上がる。しかし、オザンが「仮放免」で就労が禁じられていることを説明した途端、事務所の雰囲気は一転。「入管で確認してきて」と言われてしまう。

 入管職員の対応は、いつも事務的で型で押したような言葉しか返ってこない。クルド人の都合に耳を傾けることはない。絶対に無理だと分かっているのに、それでもオザンは入管に足を運び、テレビ出演できるかどうかを確かめる。降りしきる雨の中、肩を落として入管から出てくるオザンの姿を、カメラは映し出す。日本人にとても友好的で、性格もよく、仕事熱心でも、日本での就労も自由も認められない。

 オザンとラマザン、2人の若者の出口の見えない青春を5年間にわたって追い続けている日向監督は、このシーンを撮った心境をこう語った。

「オザンが芸能事務所からうなだれて出てきたシーンを撮っていたカメラマンは、途中からボロボロ泣き出しました。オザンの夢を前から聞いていた僕も泣きたかったけど、いちばん辛いのはオザン本人です。いたたまれなくて、掛ける言葉が見つかりませんでした。でも、心のどこかで『切実なシーンが撮れた』と感じている自分がいて、またそのことに嫌悪をしている別の自分もいるんです。嫌悪感を感じずにカメラを回せるようになったら、自分はもうダメでしょうね。確かに出口の見つからない青春を追った映画になっていますが、出口が見つからないのなら、正直にその様子を描きたかった。こちらで勝手に希望を感じさせるような演出をすることはやめようという気持ちで、映画にしています」

 ラマザンもオザンも、顔出しでドキュメンタリー映画に出演している。日本におけるクルド人の過酷な現状を訴えた本作への出演は、入管に睨まれる危険性もある。「仮放免」という立場だと、いつ収容されてもおかしくないのだ。収容された後には、トルコへの「強制送還」も待っている。

「本人たちの許可はもちろんもらっていますし、短編版『TOKYO KURDS/東京クルド』(17)が海外の映画祭で上映された際や日本でテレビ放映された際などにも、その都度『大丈夫?』と確認するようにしています。日本人である僕の立場から彼らの心情を説明するのは難しいのですが、オザンもラマザンもクルド人の現状を多くの人に知ってほしいという気持ちが強いんだと思います。加えて、オザンにはタレントになりたいという夢がある。このドキュメンタリーは、彼にとっての主演映画でもあるわけです。収容される危険性はある。でも、映画に出演したという体験が彼にとって大切なものになるのなら、ありのままの姿の彼を映し出したいという想いもあるんです」(日向監督)

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