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日刊サイゾー トップ > カルチャー > 映画  > 『おおかみこどもの雨と雪』は「理想化された母親像」

『おおかみこどもの雨と雪』は「理想化された母親像」を押し付けてはいない

多様な家族の例の1つを提示している

 細田守監督は『サマーウォーズ』以降、自身の経験を踏まえた家族の姿を作品に投影しており、同時に「現代社会では家族のあり方が多様になっているから、それぞれが自分らしい家族との関わり方を見つけてもいいのではないか」という願いのもとで作品に取り組んでいる。つまり、1つの家族の“型”を押し付ける意図は全くなく、あくまでも多様な家族の例の1つを提示しているにすぎないのだ。

 例えば、7月9日に金曜ロードショーで地上波放送される『バケモノの子』では、子どもを育てるのは「ぐうたらで粗野な父親」なのだが、その悪友たちも彼のサポートをしており、子どもは文句を言いつも健やかに育っていった。「ダメな父親でも、周りの大人が子育てを助けてやったらいいじゃないか」という例が示されているというわけだ。

 『おおかみこどもの雨と雪』の排他的かつ辛い時にも笑顔でいようとした母親、『バケモノの子』のぐうたらで粗野な父親は、劇中で積極的に批判されており、「決して理想的で正しい親なんかじゃない」とはっきりと示されている。そして、子育てをしていく中でたくさんの間違いをしてしまうものの、だからこそ親として成長し、最終的には子どもを立派に育て上げた母親や父親を肯定してあげることこそが、細田守監督の目指したことなのではないだろうか。

 まとめると、『おおかみこどもの雨と雪』で描かれたのは、確かに極端な母親像ではあるが、むやみにその全てが肯定されているわけではない。多様な母親の1つの例を提示しているにすぎず、押し付ける意図はない。だけど、その「生き方」と「子どもを立派に育てたこと」は最終的には肯定してあげたい。

 細田守監督は、そんな優しさに溢れた作家であるのだろう。何より、映画は教科書通りの、道徳的に正しいことだけを描くわけではない。このような母親や父親を描く作品が、あってもいいと思うのだ。

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2021/07/02 13:00
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