「幻覚を放置すると心を壊す」負の反応も……マインドフルネスを仏教学、心理学、脳科学の研究者が共同で解明
#仏教 #マインドフルネス #心理学 #脳科学
マインドフルネス瞑想について仏教学のみならず臨床心理学、実験心理学、認知神経科学(脳科学)の研究者が共同で研究を行った蓑輪顕量編『仏典とマインドフルネス 負の反応とその対処法』(臨川書店)が刊行された。
マインドフルネスといえば、「仕事に役立つ」といったポジティブな効果ばかりがメディアでは謳われがちだ。だがこの本では、実は瞑想中に幻視・幻聴・幻覚が起こるといったマイナスの反応/神秘体験が起きうることについても正面から取り上げている。さらに、犯罪者の中にはマインドフルネス特性と呼ばれるスコアが高いのに倫理観が低いケースがあるといった研究を紹介しながら、それらの問題にどう対処していくかを多分野横断的に考えている。
マインドフルネスに懐疑的・否定的な人間が読んでも興味深い内容だが、あえてネガティブな面にも踏み込み、また、仏教学と心理学や脳科学を接続しようとしたのはなぜなのか。編著者で仏教学者である蓑輪顕量氏(東京大学人文社会系研究科教授)に訊いた。
仏教が2000年以上伝えてきた「心身の観察」
――今回の本でマインドフルネスを初期仏教にまでさかのぼって接続しようと考えたのは、なぜでしょうか?
蓑輪 その見方は、発想が逆なんですね。私は以前、曹洞宗系の愛知学院大学で教鞭をとっていた際に留学生のバングラデシュのお坊さんと共同研究する機会がありました。そのとき仏教は本来、体験の宗教なのに、自分が学んできた日本の仏教学は思想研究に偏っていると気づきました。以降、体験の研究に重点を置くようになりました。
仏教は人間が抱える悩み・苦しみを超えるための「サティ・パッターナ」(念処)とパーリ語で呼ばれる観察方法を伝えてきましたが、それがマインドフルネスで行われている「心身の観察」です。パーリ語で書かれた仏典はスリランカに伝授されてきたものが19世紀にヨーロッパに紹介され、そのとき「サティ・パッターナ」の訳語として「mindfulness」と使われたのがこの用語の初出であろうとされています。もっとも、市民権を得たのは1970年代以降、マサチューセッツ大学医学大学院で心理学を研究してきたジョン・カバットジン教授のおかげですね。カバットジンは曹洞宗にもっとも影響を受けたとおっしゃっていますが、彼が「マインドフルネス瞑想法」(やがてマインドフルネスストレス低減法[MBSR]として改良される)という形で世の中に出したものが広がった。ところが、彼はあまり仏教的なことを言わない。だから、もともとは仏教教団の中で2000年以上にわたって伝えてきたことなのだと明らかにする必要がある――と思ったのが、私がマインドフルネス研究に取り組むようになったきっかけです。
――僧侶や仏教学者にはマインドフルネスに否定的な方もいますよね。
蓑輪 例えば、ヨーガ・ブームのときに仏教学者が利用されたといいますか、振り回された経験が記憶にあって、マインドフルネスにも距離を置いている方がいらっしゃるようです。ただ、多くの人たちがマインドフルネス瞑想を体験し、ストレスが軽減されているという事実があります。そして、そのオリジンは仏教にある。この点をきちんと伝えていけば、仏教に対する見方も変わってくるのではないかと考えていますので、私は否定的にはとらえていません。
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