【格闘王・前田日明と「リングス」の曳航 Vol.4】幻のヒクソン戦、奇跡のカレリン戦、そしてPRIDEとの相剋
「日明」という名前
前田がそうしたロシアの風土に惹かれるのはなぜか。
〈 俺の母方のお爺さんの家って李朝(かつて朝鮮半島に実在した王朝)の宮廷武官だったんです。閔妃暗殺事件(1895年、李朝の王妃が宮廷内で暗殺された事件)のとき、お爺さんのお父さん、ひい爺さんが関わってたらしい。そんで、責任を取らされて野に降った。槍を持って抗日ゲリラとかやったんですけど。食糧調達のために村に下りていったりするじゃないですか。そのうち、強盗呼ばわりされて、だんだん嫌になった。
お爺さんの代になって日本に来ます。「閔妃暗殺に関わった日本の右翼を殺すんだ」とか言って、やって来たんですよ。そういう変な家柄の血も入ってるんで(笑)。
俺の名前、「日明」はその母方の爺さんがつけてくれました。カッチンコッチンの儒教主義者ですから、娘の子供、外孫に名前をつけることなんかないんです。男尊女卑どころじゃない。こんなこと言ったら、お爺さんに怒られるかもわかんないけど、彼にとって女性は人間じゃないんです。
母親は15人兄弟。男は2人であとは全部女です。だから、お爺さんには娘がいっぱいいて。外孫も大勢いた。その中で、なぜか俺にだけ名前をつけてくれた。
新生UWFのころ、近い関係にあったシンサック・ソーシリパン(元キックボクサー、シンサック・ビクトリー・ジム会長)さんの奥さんが占いをやっていて。社長の神(新二)や専務の鈴木(浩充)は興行の開催日程なんかを彼女に占ってもらってました。いつの間にか選手も彼女に影響されて。髙田や宮戸(優光)は彼女に「改名しろ」と言われて従ったんです。
俺も「字画が悪いから変えろ」って言われたんですけど。結局、変えませんでした。名前は関係ありませんから。〉
前田がかつて追い求め、得られなかった東アジア的な家族のつながり。リングスネットワークの中で形を変えて実現したのかもしれない。そういえば、シベリア出身のカレリンも自らを「アジア人」と位置づけている。
〈 人に対する傷は癒されましたよ、リングスで。いろんな意味でね。〉
(Vol.5に続く)
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