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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 前田日明と「リングス」の曳航(4)
リングス旗揚げ30周年記念 短期集中連載『天涯の標』

【格闘王・前田日明と「リングス」の曳航 Vol.4】幻のヒクソン戦、奇跡のカレリン戦、そしてPRIDEとの相剋

英雄と格闘王

“英雄”カレリン(Getty Imagesより)

 〈 オリンピック4連覇を翌年に控えた大事なときに、カレリンがプロ格闘技の試合に出る。それ自体があり得ないことなんです。

 本人は「やってもいいよ」っていうんで日本に来た。でも、周りはみんな反対してました。「4連覇直前でケガでもしたらどうするんだ」と。みんな止めてたんです。

 そのうち、「もう、カレリンを無理やり引きずってでもロシアに連れて帰ろう」みたいなことを言い出す奴が出てきた。言われているうちにカレリンも「そうなのかな」っていう気になったようなんです。すでに来日してるのに、「やる」「やらない」の話になってしまった。

 そこで、ウラジミール・パコージン(元ソ連国家スポーツ省事務次官、リングス・ロシア代表)が説得に行ってくれました。映像制作会社「クエスト」の木暮優治さんも帯同者として一緒に行った。木暮さんによると、「あなたがロシアの英雄だというのなら、私の話をちょっと聞いてくれ」とパコージンが涙ながらに話し始めたそうです。

 「マエダという男がペレストロイカ以降、ロシアの格闘技系アスリートをどれだけ助けたか。あなたは知っているのか? 彼がいなかったら、一家心中したりするような奴がいっぱい出てきただろう。何十人というロシアのスポーツマンの生活を彼は支えたんだ。あなたも知っているだろう。スポーツマスター制度が廃止になって、サンボの選手をはじめ、いろんなアスリートがどうなったか。あなたの周りにもそういう人がいるでしょう。マエダはそういう人たちに声を掛け、プロの世界でギャラを手渡した。それも何千ドルって額だ。誠実にやってくれたんだよ。それだけじゃない。『ロシア人はロシア人で大会ができるように』と、手配もつけてくれた。興行までやったんだよ。彼に関する限り、ロシア人から搾取するような真似は一切していない。あなたはロシア国内で英雄と呼ばれる人間だ。だったら、ロシア人を助けてくれた日本人のために引退試合を1試合ぐらいしてやってもいいでしょう。あなたは偉大で力強い人だ。名誉だとか、不名誉だとか考える前に、英雄としてやるべきだ」

 最後まで聞いて、カレリンが口を開いた。

「それは本当の話か?」

 周りがみんなで答えた。

「実際にロシア人が91年からリングスに上がってます」

「ああ、だったら、やるよ」

 カレリンはそう言ってくれたんです。

 当時から「カレリンにギャラはいくら提示したんだ?」っていろんなところで聞かれました。カレリンに渡したのは2万ドル(当時の為替相場で約200万円)。たったの2万ドルです。〉

 英雄がリングス出場を決意したのは金銭目当てではなかった。

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