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日刊サイゾー トップ > エンタメ > アイドル  > 乃木坂46「世代交代」を 「生物学」から考える
■乃木坂46の「世代交代」論-1

乃木坂46の「世代交代」は可能か? 「生物学」から考える「もしかしたら絶滅への過程を見ているだけかもしれない」

乃木坂46の「世代交代」は可能か? 「生物学」から考える「もしかしたら絶滅への過程を見ているだけかもしれない」の画像1
乃木坂46の4期生たち(公式Twitter@nogizaka46より)

 この8月に結成10周年を迎えるアイドルグループ・乃木坂46。白石麻衣をはじめグループの黎明期を支えた1期、2期生がどんどん卒業していく一方で、3期、4期の新しいメンバーたちが活躍の場を広げつつある。そんな乃木坂46は、このまま「世代交代」に成功し、アイドル界の頂点に君臨し続けるのか、それとも「世代交代」に失敗してしまうのか──? 

 そこで、あらゆる専門家に「世代交代」という現象について話を聞き、乃木坂46の「世代交代」を成功させるために知恵を拝借しようという本連載をスタート! 第1回目は、立教大学理学部生命理学科准教授で生物学者の榊原恵子先生に、生物学の観点から「世代交代」の話を聞いてきた。

乃木坂46と生物学の共通点「多様性を保つこと」

乃木坂46の「世代交代」は可能か? 「生物学」から考える「もしかしたら絶滅への過程を見ているだけかもしれない」の画像2
Getty Imagesより


──「世代交代」を調べたときに、生物学にも「世代交代」という用語があることを知りました。植物は約4億7000万年という、乃木坂46とは比べものにならないほど長い歴史を持っていますが、だからこそ学べることもあるんじゃないかと。そこでまず、生物学でいう「世代交代」とはどのようなことを指すのか教えてください。

榊原恵子先生(以下、榊原):「世代交代」という言葉を最初に生物学に使い始めたのは19世紀のデンマークの動物学者、J. J. S. Steenstrupだといわれています。

 生物学での「世代交代」を身近な例を使ってお教えすると、クラゲは同じ種でも、その生活環(ライフサイクル)のなかで違う姿になる時期があったり、また戻ったりして螺旋のように命をつないでいるんです。それを「世代交代」と呼んだんですね。

──生物学の「世代交代」は、動物学に由来するんですね。では、乃木坂46をはじめとしたアイドルグループの「世代交代」との違いはどこにあるのでしょうか?

乃木坂46の「世代交代」は可能か? 「生物学」から考える「もしかしたら絶滅への過程を見ているだけかもしれない」の画像3
榊原先生がつくってくれたパワーポイントより

 

榊原:そもそも生物学の「世代交代」は、「alternation(交互) of generations」や「alternating generations」を日本語に訳したものです。一方で、メンバーが交代することを指す、アイドルグループの「世代交代」は、一度去ったメンバーは基本的にはもう戻ってこないですよね。なので「Generational change(変化)」といえるのではないでしょうか。つまり、違う意味の2つの英語を日本語に訳したら、たまたま一緒になったという話じゃないかと思います。

──乃木坂46はいま、白石麻衣や松村沙友理などグループ結成初期から在籍し、グループをここまで大きくした1期メンバーがどんどん卒業しています。代わりに、3期生の与田祐希や山下美月、久保史緒里、4期生の遠藤さくらたちがグループを引っ張っていく段階に入っています。生物学の「世代交代」から乃木坂46が学べることはあるでしょうか?

榊原:植物は環境に応じて異なる戦略を取っています。例を挙げると、コケ植物は配偶体のみでも無性生殖としてクローンで増殖することも可能なのですが、環境変化を感知すると有性生殖期に入っていくんです。配偶体のままだとクローンで増えている状態なので、例えば、そのクローン増殖した植物が特定のウイルスに弱いという遺伝的性質を持っていたとすると、そのウイルスに感染した場合は、集団の中にウイルスが蔓延しやすい状態になる恐れがあります。

 有性生殖を経て形成された個体だと、両親から遺伝子を半分ずつもらうことになるので、必然的に親とは違う遺伝子の組み合わせを持った子供ができ、多様性が保たれます。その子どもの中には、生き残れる遺伝子の組み合わせを持った個体もあるかもしれない。そのことによって、集団が変化したりします。多様性を保つということは、アイドルグループにも通ずるものがあるのではないでしょうか。

──乃木坂46も、新メンバーの追加で多様性を保っているということがあると思います。

榊原:そうですね。ただどういう変化が起きようと、それがネガティブに働くかポジティブに働くかは、環境との兼ね合い次第でしょう。例えば、暑さに強くなるような変異が起こったとしても、そのときがたまたま氷河期であれば意味がないかもしれません。ですから結局、何が生き残るかは結果としてしかわからないというわけなんです。

──乃木坂46のようなアイドルグループにおいても、どのメンバーの人気が伸びるか予測ができないという点は、共通しているといえそうです。

榊原:そうかもしれません。変異が起こること、その変異がプラスの影響を持つこと、プラスの影響が反映されやすい環境状態にあることなど、いくつもの要素があるので、こうしたらこうなる、と決まっているわけではないんですよね。

「今、生きているものが成功者」であること

──では、植物の世界では世代交代に失敗し、螺旋が続かなくなってしまうと、その種はその代で途絶えてしまうのでしょうか。

榊原:もともと有性生殖をしていたのに、やめてしまっている生き物もいるので、有性生殖がうまくいかなくなったとしても即絶滅とは限らないですね。でも、それはもしかしたら、絶滅への過程を見ているだけかもしれないんですけど。ただ、今生き残っている生き物は、現段階での成功者といえる存在であるのは間違いありません。

──他に、アイドルグループの交代と共通しそうな植物学の例はありますか?

榊原:新しく島ができたり、火山の噴火で溶岩が地面を覆ってしまったりして、植物が生えていない裸地ができたときに、外から新しく植物が入ってきて、長い時間を経て生えている植物が移り変わっていく「遷移(せんい)」という現象があります。その過程で、裸地の頃に入りこんだ方が育ちやすい植物と、豊かな森林ができた頃に入り込んだ方が育ちやすい植物とがあるんです。グループメンバーの変遷でも、そのような例がありますか?

──乃木坂46も、少しずつオリジナルメンバー(オリメン)が卒業していって、グラデーション式にメンバーが交代して行きます。アイドルグループもいつしかオリメンが一人もいないグループになっていたりするんです。そういう意味では森林とアイドルグループは似ているかもしれませんが、アイドルグループではオリメンの人気が強い傾向にあるので、オリメンを凌駕する後発メンバーというのがなかなか生まれづらいのが難しいところです。

榊原:遷移の最終段階の森林には階層構造ができると考えられています。高いところ、中程度の高さのところ、低いところでは光の強さが違うので、違う植物が育ってるんです。それぞれの植物がそれぞれの環境に適応して成長したり、置き換わったりして、結果、豊かな森林として維持されるんですね。

 また、これは植物科学の話になりますが、植物の上部(頂端)に生えている芽をあえて切ることで株全体が大きくなることがあるんです。真ん中の茎が頑張っていると周りの脇芽の成長を抑制してしまうのですが、そんなとき、真ん中を切るとその抑制が外れるので、脇芽が育って果実や種子の収量が期待できることがあります。これを「頂芽優勢」といいます。

──アイドルでも、センターや人気メンバーが頑張りすぎるとそのほかのメンバーが伸びなくなる……という現象はあるように思います。

榊原:先ほど植物の多様性の話をしましたが、周りの環境がよすぎても有性生殖のスイッチは入らないんですね。コケに関していえば、環境変化がなければ有性生殖をせず、無性生殖のまま増殖することもあります。気温が低くなったり、日照時間が少なくなったりという環境変化が起こると、変化に応答して有性生殖期に入っていくんです。

──「世代交代」をして生き残るためには、危機的な環境の変化が必要だと。

榊原:ただ、グループを生き物に見立てて考えるのはなかなか難しいですね。先ほども申し上げたように、アイドルグループの世代交代は「generational change」ですよね。乃木坂46がこれから何十年と続いていって、メンバーの子どもが加入するようになったとしたら、生物学の視点から見た「alternation」に見立てて考えることもできるようになるかもしれません。

──では最後に、生物はなんのために「世代交代」をするのでしょうか?

榊原:うーん、「なんのために」と考えること自体難しいんですが、たまたま獲得された生殖システムが有効で、現在まで生き残っているということでしょうか。先のことはわからないですし、あくまで現状は結果論にすぎません。私たちは、植物が「世代交代」を繰り返したそのアウトプットを見ているだけなんですよね。

〈文=福永全体(A4studio)〉

榊原 恵子(さかきばら・けいこ)

1973年生まれ。生物学者。2003年総合研究大学院大学博士課程後期修了。2016年より立教大学理学部准教授。著書に『植物の世代交代制御因子の発見』(慶應義塾大学出版会)。「生命誌ジャーナル」

 

 

A4studio(編集プロダクション)

2012年設立の編集プロダクション。経済、ビジネス、芸能、エンタメ、サブカル、ファッション、恋愛などのジャンルのコンテンツ制作を行っている。A4studio

えーよんすたじお

最終更新:2021/06/22 12:33
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