映画『RUN/ラン』で思い知らされる「だから、毒母は恐ろしい」。その3つの魅力を解説
#毒母 #RUN/ラン #ホラーサスペンス #車椅子
2021年6月18日より、映画『RUN/ラン』が公開される。結論から申し上げておくと、これは面白い。90分の上映時間で突き抜け、いっさいダレることがない、誰もが「あー!怖くて面白かったー!」と劇場を後にできる娯楽ホラーサスペンスとして、申し分のない出来だった。さらなる魅力を、ネタバレのない範囲で解説していこう。
毒母との一触即発の心理バトルが勃発!
本作の内容を一行で表すのであれば、「車椅子生活を送る聡明な少女VS異常さが露わになっていく毒母」というカードで展開する心理バトルだ。
主人公のクロエは、慢性的な喘息、血色素症、不整脈、糖尿病、さらには筋肉機能不全 による下半身麻痺を患っており、車椅子生活を余儀なくされていた。そんなクロエは地元の大学への進学を望み、母のダイアンもその夢を後押ししているように表向きは「見えて」いたが、徐々にクロエはその異常性に気づいていく。決定打となったのは、ダイアンが新しい薬だと称して渡していた、怪しい緑色のカプセルだった……。
展開するのは「身体を自由に動かせないハンデを持ちながらも、相手の目をかいくぐってどのように脱出するか」というサスペンス。戦う手段は必然的に「知恵」と「勇気」となり、ほんの少しでも気を緩めたり、脱出の計画に綻びがあれば、一巻の終わりとなる。加えて、「母は娘のことを信じている」「娘はそう思わせておいて隙をうかがう」という、長年の親子関係があってこその心理バトルも勃発する。その過程がエンターテインメントとして面白いことは言うまでもない。
その脱出サスペンスの恐怖感を増し増しにしているのは、主演2人の熱演だ。娘クロエを演じるキーラ・アレンは本作が映画初主演という大抜擢だが、不安でいっぱいの「恐れている表情」そのものが観客と一体化するかたちで恐怖を呼ぶ。毒母ダイアンを演じるサラ・ポールソンの、歪んだ母性愛が狂気へと変貌していく様もも「顔だけで怖い」レベルにまで到達している。主要登場人物がほぼ2人のみ、その「顔面演技」を接写で映すという良い意味でのミニマルさも、怖さと面白さに直結しているのだ。
絶賛を浴びた映画『search/サーチ』と同様かつ、正反対の要素がある。
この『RUN/ラン』で大きく打ち出されているのは、 現在Netflixでも配信中の映画『search/サーチ』(2018)の監督・製作チームによる最新作であることだ。
『search/サーチ』は「全編100%がパソコンの画面上で展開する」特殊な内容であると共に、辛口な批評家筋からも絶賛で迎えられたことで脚光を浴びた。監督のアニーシュ・チャガンティは製作当時に若干27歳であったが、脚本家と共同して行方不明者もののサスペンス映画を何十本も観て、観客をミスリードさせる手法や、効果的な伏線回収といった「面白さの理由」を研究しつくしたという。つまり、全編がパソコンの画面上で展開するという特殊な内容でありながら、「昔ながらの映画の基本」に立ち返った作品でもあったのだ。
今回の『RUN/ラン』で連想されるのは、それこそ『ミザリー』(1990)や『何がジェーンに起ったか?』(1962)に代表される「監禁もののサスペンスホラー」であり、それ自体はスタンダードで目新しさはない。だが、「毒母と娘」という要素をメインに掲げ、さらに(ネタバレになるので具体的には書かないでおくが)種々の斬新なアイデアも盛り込まれている。作り手の映画への妥協のない研究と、観客をとにかく楽しませるというサービス精神が『search/サーチ』と共通しており、この2本をもってアニーシュ・チャガンティ監督は圧倒的な信頼を持つクリエイターとなったと断言していいだろう。
加えて興味深いのは、『search/サーチ』で「(父)親が失踪した娘の手がかりを探すため、SNSや動画サイトに絶え間なくアクセスしていた」ことに対して、この『RUN/ラン』は「(母)親から逃げなければならない娘が、インターネットに一切接続できない環境に囚われている」という、ちょうど真逆のシチュエーションになっていること。この試みが単なる逆張りなどではなく、誰もが楽しめるエンターテインメントとして昇華されていることも賞賛するべきだろう。
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