コロナ禍でデビューを果たした注目の監督たち 愛に飢えた者の成長『ひとくず』『海辺の金魚』
#児童虐待 #新型コロナウイルス #上西雄大 #ひとくず
くだらない思い出が、愛おしく感じられる
大阪を舞台にした『ひとくず』は串カツのソースのようにドロドロした濃厚な人間ドラマが描かれているが、早稲田大学在学中に『誰も知らない』(04)や『万引き家族』(18)で知られる是枝裕和監督の指導を受けた小川監督は、ドキュメンタリータッチで子どもたちの姿を追っている。小川監督の母親の故郷である鹿児島県阿久根市でロケ撮影されており、海辺で子どもたちが戯れる様子はとても美しく、ソーメン流しを楽しむ彼らの表情は輝いている。小川監督は自分が完全な大人になり切る前に、この映画を撮りたかったのではないだろうか。
温かい家庭の記憶を持たない『ひとくず』の主人公・金田は、「アイスクリームを食べれば、嫌なことは忘れられる」とコンビニで買うアイスクリームにこだわる。『海辺の金魚』では鹿児島の銘菓である「ボンタンアメ」が、花と晴海を結ぶキーアイテムとなっている。「ボンタンアメ」は甘ったるくて、口の中でニチャニチャする。今どき流行らないお菓子だ。でも、そんな駄菓子が、血の繋がらない花と晴海にとっての大切な思い出となっていく。
思い出は、くだらなくてバカバカしい方が、より愛おしく感じられる。つらい記憶の中にたったひとつでも、腹を抱えて笑い合った思い出や誰かと繋がっていた温かい体験があれば、どん底に陥ることを防ぐストッパーの役割を果たしてくれる。いつか大人になってから、新しい家族や仲間を迎えることで、オセロゲームのように記憶を反転させることもできるかもしれない。
映画は孤独な人間の心に寄り添ってくれるメディアだ。誰しも心の中には、ささやかだけど大切な思い出が眠っている。薄暗い客席で観る映画は、そんな忘れかけていた記憶をやんわりと思い出させてくれる。映画界はこれから映像配信に力を注いでいくことになるだろうが、やはり映画は映画館の薄暗い闇の中で楽しみたい。
(文=長野辰次)
『ひとくず』
監督・脚本・プロデューサー/上西雄大 主題歌/吉村ビソー「HITOKUZU」
出演/上西雄大、小南希良梨、古川藍、徳竹未夏、中山むつき、税所篤彦、川合敏之、椿鮒子、空田浩志、吉田祐健、中里ひろみ、谷しげる、上村ゆきえ、西川莉子、美咲、山本真弘、松木大輔、美村多栄、工藤俊作、城明男、堀田眞三、田中要次、木下ほうか
配給/渋谷プロダクション 6月12日より渋谷ユーロスペースほかにて全国上映中
(c)YUDAI UENISHI
https://hitokuzu.com
『ねばぎば新世界』
監督・脚本・プロデューサー/上西雄大 主題歌/吉村ビソー「comme ca de 大阪」
出演/赤井英和、上西雄大、坂田聡、徳竹未夏、古川藍、金子昇、神戸浩、長原成樹、リー村山、堀田眞三、伴大介、谷しげる、剣持直明、國本鐘建、上山勝也、柴山勝也、草刈健太郎、田中要次、菅田俊、有森也実、小沢仁志、西岡徳馬
配給/10ANTS、渋谷プロダクション 7月10日(土)より新宿K’s Cinemaほか全国順次公開
(c)YUDAI UENISHI
https://nebagiba-shinsekai.com
『海辺の金魚』
監督・脚本・編集/小川紗良 撮影/山崎裕
出演/小川未祐、花田琉愛、芹澤興人、福崎那由他、山田キヌヲ
配給/東映ビデオ 6月25日(金)より新宿シネマカリテほか全国ロードショー
(c)2021 東映ビデオ
https://umibe-kingyo.com
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