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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.640

コロナ禍でデビューを果たした注目の監督たち 愛に飢えた者の成長『ひとくず』『海辺の金魚』

子どもの愛し方を知らない大人たち

コロナ禍でデビューを果たした注目の監督たち 愛に飢えた者の成長『ひとくず』『海辺の金魚』の画像2
鞠の母親・凛(古川藍)も、親から愛された記憶を持っていなかった。

 劇団「テンアンツ」を主宰し、関西を拠点に俳優・脚本家として活動してきた上西は、3歳まで戸籍を持っていなかったそうだ。また、実の父親が母親を殴り、蹴るという光景を日常的に見て育った過去を持つ。父親は上西には手をあげなかったものの、上西はつらい過去を封印することで大人になった。本作を撮ることになったきっかけは、30年以上にわたって児童相談所に勤める児童精神科医から「虐待してしまう大人もまた、傷ついている」という実情を聞いたことだった。上西は帰宅後、眠ることができずにそのまま脚本をいっきに書き上げ、劇団員、インディーズ映画やVシネマで活躍する個性派キャストらを起用し、『ひとくず』を撮り上げた。

「お前はそれでも母親か」と金田は鞠の母親・凛を責めるが、彼女の反論も痛切だ。

「どうやって、子どもに接したらいいのか。どうやって、愛情を注いだらいいのか分からないんだよ!」

 子どもを虐待、ネグレクトする親も、その親から同じ目に遭っていたという、不幸の連鎖が大きく横たわる。不幸な家庭に生まれた子どもは、一生幸せにはなれないのか? 宿痾のような負の連鎖は、どうすれば断ち切れるのか? 上西をはじめとする『ひとくず』の全キャストがそれぞれのキャラクターを熱演することで、この難問に懸命に取り組んでみせている。彼らがどんな結末を用意したのか、エンドロールまで見届けてほしい。

 2019年のイタリア・ミラノ国際映画祭ではベストフィルム賞(グランプリ)、上西が主演男優賞を受賞。同年のフランス・ニース国際映画祭では上西が主演男優賞、凛役の古川藍が助演女優賞、2020年のロンドン国際映画祭では外国語映画最優秀賞、上西が最優秀男優賞に選ばれるなど、海外での評価は国内以上に高い。赤井英和と上西がダブル主演した新しい上西監督作『ねばぎば新世界』は、7月10日(土)より公開。さらに最新の上西監督&主演作『西成ゴローの四億円』の公開も、年内に控えている。今年57歳になる上西は、コロナ禍でブレイクを果たした雑草のようにタフなインディーズヒーローだ。

 もうひとつ、注目の新人監督の作品が6月25日(金)より公開される。映画『聖なるもの』(18)や『ビューティフルドリーマー』(20)などに主演し、 NHK朝ドラ『まんぷく』で安藤サクラの娘役を演じた若手女優・小川紗良の長編監督デビュー作となる『海辺の金魚』だ。少女の成長をメインテーマにした作品だが、ネグレクト問題もサブテーマとして含まれている。

 18歳になる高校生の花(小川未祐)は、身寄りのない子どもたちが暮らす養護施設で育った。にぎやかな共同生活に花は不満なく過ごしてきたが、殺人罪で収監されている母親(山田キヌヲ)のことを思い出すと、胸が苦しくなる。肉親と幼い頃に別れたことが、花のトラウマとなっていた。

 すっかりなじんでいた施設は、高校卒業後には出て行かなくてはいけない。自分が大人になることに花が葛藤を感じていたとき、母親からネグレクトされている8歳の女の子・晴海(花田琉愛)が入所してくる。誰にも心を開かず、母親のもとに早く帰ることを願っている晴海に、花はかつての自分を重ねてシンパシーを覚える。晴海の世話を焼くことで、花は親の愛情を充分に受けられなかった自分の心の飢えを満たそうとする。

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