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もう中学生が貫く、平場の手数論。タブーを可能にしたのは500冊のネタ帳とセンスがものすごい小物のストック

38歳にしてはネタが古い

もう中は38歳だ。はっきり言っていい歳である。だとしても、扱うネタが古過ぎる。ギャオス内藤に関しては明らかにリアルタイムで見聞きしたものではなく、自発的に吸収した情報のはずだ。

 6月11日放送『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系)が行った企業訪問ロケで、彼は20代に全く響かないであろう喩えを連発した。

 もう中が訪れたのは業務用スライサー、食品カッターメーカーの大手・平野製作所だった。入り口で出迎えてくれた女性を“受付の人”と認識するもう中。しかし、彼女が同社の社長だと知ると「受付のチャンネーかと思った」と発言。しれっと失礼なことを口にし、男尊女卑的な古い考えを披露する辺りは強心臓だ。

 ここからはもう、やりたい放題。食材を入れ、玉ねぎやキュウリを何分割にもするカッターを発見するや「『クイズ ヒントでピント』(テレビ朝日系)の分割を作る機械ですか?」と、30年近く前に終わったテレビ番組を引用するセンス。引き出しの角度と古さが凄い。

 あと、もう中のコメントからは“音楽好き”の一面も窺える。ステンレス製の機械を目にして「銀なんだけどさりげない。ギンギンにさりげないですね」とコメントしたのは序の口。1個のリンゴを一気に12等分できるカッターには「東京スカパラダイスオーケストラがリンゴを分けようとしたら全員に配れる」、大根の皮を一瞬で剥く機械には「『ガッツだぜ!!』以来のあっちゅー間」と表現。そのボキャブラリーからは、彼のプライベートな嗜好が確実に垣間見える。

 極めつけは、一瞬で1個のパインの皮を剥いて芯をくり抜くパインカッターを見学した際のもう中だ。「パイン穴から向こう側を覗いてみましょう」と促した彼がその先に掲げたのは、シャ乱Qの94年ツアー記念うちわだった。ちなみに、シャ乱Qが『ズルい女』でヒットを飛ばしたのは95年。94年にリリースされたのは、シャ乱Q大ブレイク前夜の『シングルベッド』である。そう考えると、このうちわはかなり貴重な一品だ。なぜ、こんな物を持っているのか? 

 思い返すと、この手の小物使い芸は往年の田代まさしが得意としていた。しかし、グッズ1つ1つのレア度では完全にもう中に軍配が上がる。スライサーのサイズを測る際に彼が取り出したのは『渡辺篤史の建もの探訪』(テレビ朝日系)のノベルティグッズだったし、そのセレクト眼も異常。しかも、各番組に持ち出す小物が決して被らないのも偉い。『相席食堂』ではギャオス内藤のビデオを選び、『かりそめ天国』にはシャ乱Qのうちわを持ち出している。ちゃんと色分けしているのだ。企画内容を知った時点で、「あのグッズを持って行こう」と彼の中で計算ができているのだろう。

 止まらない手数は、潤沢な小物ストックと500冊のネタ帳に裏打ちされているからこそだ。

いちいちロックの匂いがするボキャブラリー

 今、もう中に向けられてるスポットライトは、かれこれ10年ぶり。2021年のもう中は、いわゆる再ブレイクである。1度目のブレイクは段ボールを用いたコントが要因だった。今回のブレイクは、異常なセンスが日常に持ち込まれて起きる化学反応によるところが大きい。つまり、咄嗟に出る彼のボキャブラリーに要注目なのだ。

 筆者が感嘆したのは、4月23日放送『かりそめ天国』での豊洲市場ロケだった。寿司店に入り、プルプル揺れる煮穴子を食べながら「プルプル揺れてるLUNA SEAのROSIER状態」と、独特の喩えで食リポするもう中。「揺れて揺れて今心が~」という『ROSIER』の歌詞からのインスパイアである。また、自分の現在位置がわからず、掲示された地図を見ようとのけぞった体勢がCOMPLEXの吉川晃司と酷似していると気付くと、自らのフォームを「吉川見(きっかわみ)」と表現。ここまで来ると、天才の発想だと認めざるを得ない。

 ちなみにもう中は、ノートと向き合い絞り出してネタを作る芸人ではないらしい。段ボールを見て、初めて「こういうネタができそう」と着想を得るというのだ。ミュージシャンが曲を作る際、詞先、曲先とよく表現するが、それを彷彿とさせる。もう中のネタは、言わば“段ボール先”。詞先、曲先、段先と、いちいちロックの匂いがするところも彼の特徴である。

 バラエティの平場に手数論を持ち込んだもう中学生。周囲からの期待値と豊富なネタ量が組み合わさったからこその聖域が、彼の味方だ。

寺西ジャジューカ(芸能・テレビウォッチャー)

1978年生まれ。得意分野は、芸能、音楽、格闘技、(昔の)プロレス系。『証言UWF』(宝島社)に執筆。

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最終更新:2021/06/17 20:00
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