ミャンマーデモ、テレビ報道だけでは見えてこないクーデターの裏構造 【ノンフィクション作家・高野秀行さんインタビュー】
#デモ #ミャンマー #高野秀行
疲弊する市民の間で広がる「戦うか、諦めるか」の分断
クーデターとそれに対抗するデモが起きた当初と比べて、その様相は徐々に変化してきているという。ストライキを続けてきた国民に疲弊が色濃く表れはじめ、所得が低い国民を中心に、デモへの参加をやめる層も現れはじめている。
「不服従運動をすれば経済が止まりますから、明日の飯に困るような人たちも出てくる。そういう市民たちがデモをやめて仕事に戻ることは、誰も責められません。一方で、民主化を阻む軍と戦うためデモを続ける意志が強い人たちもいる。市民のなかでも、分断や軋轢が生まれつつあります」(高野さん)
そして、市民の間で広がる「戦うか、諦めるか」の分断・対立は、社会の格差まで広げようとしている。
「ミャンマーでは間もなく学校が再開されますが、これまでコロナ対策のため1年間休校していました。そのすきに、国軍が学校で使う教科書を書き換えているという情報があります。民主化の象徴的な指導者であるアウサンスーチーやNLD(国民民主連盟)についての記述を変えたり、消したりしているのです。まるで日本の戦後の墨塗り教科書みたいな話ですよ。
市民のなかには、デモのため『子どもに学校自体をボイコットさせよう』と主張する親もいる。一方で、軍の関係者は子どもを通常どおり学校に送ることになるでしょう。もともと、国軍関係者の子どもは経済的余裕から学歴が高く、平均的な一般市民とは教育の格差がありました。すでに1年も教育が遅れてしまっていますし、そうなるとさらに格差が拡大することにつながる。古い軍政の時代にますます逆もどりです」(高野さん)
西欧諸国を中心とした国際社会からは、経済制裁の強化を主張する声も高まっている。ただ高野氏は、国際社会からの圧力は「ミャンマー社会が平穏を取り戻すための決定的な力にはなりえないだろう」と懐疑的だ。
国際的圧力といえども、軍の高官や幹部を経済制裁の対象にしたり、軍企業との取引を停止することくらいしかできない。ましてや軍事介入など不可能だ。経済制裁はこれまでも行われてきたが、それほど効果はなかった。国連安全保障理事会が取り組む武器禁輸措置を阻止している中国やロシアとのつながりを強化すれば、軍部は経済的にやっていけないわけではない。
「ミャンマーの大多数の市民が民主化の勝利を勝ち取るシナリオとしては、軍の一部が離反し、市民の味方につくというケースが考えられます。それが唯一最大の可能性でしょう。ですが軍は一枚岩で非常に強固。解決までの道筋がまったくみえない状況です」(高野さん)
独裁か民主化か――。そんな議論も大いに重要だろう。ただ、ミャンマーで起きていることを単純化したり、矮小化したりして、すべてを理解したかのように勘違いするのは、ミャンマー社会が平穏を取り戻すためには役には立たない。
「ミャンマーにはどういう層の人たちがいて、それぞれがどういうことを考えているかしっかり聞くべきだというのが私の意見です。彼らとは立場の異なる私たちが、その声を勝手に“代弁”しようとするのは避けなければならない。日本政府は軍にも、民主勢力にもパイプがあるといいます。もしそれが本当なら、軍部だけでなく、表に出ることが難しくなったNLD、NUG(国民統一政府)など、民主派の人々の声にも耳を傾けるべきでしょう。日本がミャンマーに年間1000億円の支援をしている途上国援助(ODA)にしろ、『ミャンマー国民のため』というような建前は脇に置いて、本当の状況をしっかりと説明していくべきだと思います」(高野さん)
ミャンマーで起こっているデモを、ここ日本から理解し、少しでも支援していくためには、ひとりでも多くの人々の声を拾い集めることが大切になりそうだ。
※一部、記事に誤りがありましたので、お詫びして訂正いたします。
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