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ミャンマーデモ、テレビ報道だけでは見えてこないクーデターの裏構造 【ノンフィクション作家・高野秀行さんインタビュー】

ミャンマーデモ、テレビ報道だけでは見えてこないクーデターの裏構造 【ノンフィクション作家・高野秀行さんインタビュー】の画像1
作家の高野秀行さん 

 2021年2月にミャンマーで国軍によるクーデターが発生してからおよそ4カ月が経過した。当初こそ日本のテレビでも盛んに報じられてきたミャンマーのデモのニュースだが、日を重ねるにつれその現状が不透明なものになりつつある。

 そもそもミャンマーという国について、私たちが知っていることは少ない。かつての社会主義の名残に民主化運動、アウンサンスーチーさんにロヒンギャ問題……そんなワードを“なんとなく”知ってはいても、ミャンマーの本当の姿はよく知らないというのが本音ではないだろうか。

 そんなとき思い出した本が、現地ミャンマーの少数民族とアヘンを栽培しながら約7カ月以上暮らし、ミャンマー国軍の兵士とも渡り合った経験を綴ったルポルタージュ『アヘン王国潜入記』(草思社/集英社文庫)だった。著者の高野秀行さんは、ミャンマーをはじめ世界中の“辺境”への取材経験を持つノンフィクション作家だ。そんな高野さんなら、ミャンマーで起こっているデモの状況について何か教えてくれるんじゃないだろうか? 高野さんにコンタクトを取ったら、なんと取材を快く引き受けてくれた。さっそく高野さんのもとに直行。ミャンマーの現在について話を聞いてきた。

「世代間ギャップ」と「軍のプライド」

 ミャンマーデモの概要を説明するニュースのなかでは、「軍事独裁VS市民による民主化運動」というシンプルな対立軸がよく使われている。

 だが、それだけでは理解できない事柄も多いのが実態のはず。わかりやすさとはある意味、そこにあるものを削ぎ落とし、見えなくしてしまうことと同じだ。

 ノンフィクション作家の高野氏は、ミャンマーのデモの語られざる側面について、「世代間ギャップ」「軍のプライド」があると指摘する。

「ミャンマーの知人たちと話していると、若い軍人のなかにも今回のクーデターに疑問を持っている人たちは多いはずだという話題になります。僕もおそらくそうだと思う。今回のクーデターは、一部の軍上層部の“精神的な既得利権”のために起こされたと分析する人が多い。若い世代からしたら関係ない話なんですが、ミャンマーは上下関係や年功序列が日本以上に厳しい社会。しかもミャンマー国軍は第二次大戦中に旧日本軍によって基礎がつくられたという経緯があるので、今でもそれが徹底されている」(高野さん)

 国軍の経済的利権がクーデターの背景にあるのではないかという推測もあるが、高野氏は「決してそれだけではないでしょう」と付け加える。国軍はクーデター以前からミャンマー経済のおよそ8割を掌握。民主化が実現して一番潤ったのは、実は国軍だという話もある。

 実は今回、国軍側が起こしたクーデターの賛同者に、少なくない数の仏教の高僧や一部の大学教授が名を連ねている事実があるという。「若者たちの風紀の乱れ」「規律がなくなってきた」などの理由から、旧体制を懐かしむ層が、国軍のクーデターを一定評価しているのだ。

「ミャンマーでは、昔はタクシーの中に財布を忘れてもホテルまで届けてくれるというような社会の雰囲気がありましたが、近代化した現在ではもうほとんど見られないでしょう。これは民主化の一側面ではありますが、“古き良き”ミャンマーという国がなくなり、“普通”の国になってきた。ノスタルジーも相まって民主化を嘆く年配層がいるのではないかと思います」(高野さん)

 国軍をクーデターに駆り立てた強い衝動は、「議席を失う」など民主国家で一般的に想像されるようなレベルではなく、より複雑かつ固有の動機なのだそうだ。

「民主化以前のミャンマーでは、国軍はリスペクトの対象でした。軍人は所得が高いので、中流以上の若い女性にとっては軍人と結婚するのが玉の輿といわれていましたし、軍ナンバーの車が来たら先に通すなど、軍人はいわば“特権階級”として扱われてきたのです。

 しかしここ近年、市民の国軍へのリスペクトは消え、軍人も“普通”の存在になってしまった。民主化に伴う社会の変化は軍の上層部にとって耐えがたいものという話がよく聞こえてきます。プライドを失うことを恐れているのでしょう」(高野さん)

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