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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 前田日明と「リングス」の曳航(2)
リングス旗揚げ30周年記念 短期集中連載『天涯の標』

【格闘王・前田日明と「リングス」の曳航 Vol.2】マイナスからの船出、選手を探す航海へ

本当の「リアルファイト」がある場所

10年以上にわたりリングスマットで活躍したヴォルク・ハン(試合は1992年4月の前田戦)

「格闘技は古くて新しい心と体のコミュニケーション」

 創刊当時の『格闘技通信』(ベースボール・マガジン社)にはそんなコピーが添えられていた。達人同士が実際に組み合えば、立ち所にわかることもある。だが、そのときの前田にはそんなことを考える余裕すらなかった。

 初めて訪れたロシア。目的は選手の発掘にある。プロフェッショナルとして、リングスの創設者として引けを取ることは絶対に許されない。端的にいえば、「舐められたらおしまい」だ。

 アマチュアとはいえ、オリンピックや世界選手権のメダリスト級はごろごろいる。無名でハングリー、だが、弱いはずはない。どう転んでも負けられないスパーリング。前田の勝負はすでに始まっていた。

 〈 「ここであっさりコテンとやられたら、身も蓋もないな」と思いました。でも、「まあ、しょうがないや」と腹を括ってやりましたよ、そのときは。〉

 スパーリングを通じて選りすぐられたロシア人選手。その中にはリングスを象徴する外国人ファイターの一人、ヴォルク・ハンもいた。ハンは初来日で有明大会のメインイベントにいきなり登場。前田と対戦する。変幻自在に関節技の数々を駆使し、観客の度肝を抜いた。

 ハンは当時、ソ連特殊部隊の現役教官だった。本名はマゴメトハン・ガムザトハノフ。リングネーム「ヴォルク・ハン」は前田が命名した。「ヴォルク」は狼を指す。メインにハンを抜擢したのには理由があった。

 〈俺なりにいろいろ思うところがあったんです。「真剣勝負」「リアルファイト」ってよく言う。でも、どこにもそんなものはないんです。負けても誰も死なないし。

 じゃあ、「命のやり取りをしているところはどこだ?」っていったら、戦場しかない。昔ながらの生死を分ける本当の真剣勝負をやっている連中は軍隊にいるんだろうと。

 軍隊の中には白兵戦術(近接戦闘用の武器を用いた戦闘や近距離銃撃戦、格闘戦)の教程があるはず。それに特化して練習している部局があるだろうと思った。

 パコージン─堀米ラインで選手を探せるっていうんで、「『軍隊格闘技』みたいなものはないんですか?」と聞いてみた。いろいろと当たってもらって、ハンをはじめ、何人かの人間が挙がってきました。傭兵として外人部隊に行った奴とか、セキュリティーをしている奴とか。いろいろな話があった。

 ハンは出身地のトゥーラ(ダゲスタン共和国トゥーラ州)のあたりにある道場で地道に指導をしていました。軍歴を見たら、アフガニスタンに空挺部隊で行っている。ゲリラの掃討を目的とする占領中の治安部隊です。しかも、全ソのサンボ大会で優勝経験もあった。「ああ、すごいですね。こりゃいいや」と呼んでもらったんです。〉

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