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顧客を創造する宗教右派!【1】

トランプを支える宗教右派のマーケティング! ドラッカー的ビジネスで信者獲得……ワクチンを信じない福音派の布教

ビジネスの世界と通ずる「万人司祭」の価値観

 ホィートン大学政治学教授マーク・R・アムスタッツは著書『エヴァンジェリカルズ アメリカ外交を動かすキリスト教福音主義』(太田出版)において、福音派には突出した起業家精神(アントレプレナーシップ)があると指摘している。

「カトリックはバチカンのローマ教皇を頂点とするピラミッド型組織で、勝手な動きは基本的に許されませんし、出世するには神学をラテン語で学ぶ必要などがあります。プロテスタント主流派も、教会が定めた試験をパスしなければ牧師になれません。しかし、福音派は徹底した『万人司祭』。極端な話、神学を勉強していなくても、『私に神が降りてきた』と言えば誰でも牧師になれます」(松本氏)

 いわば、「やったもん勝ち」「信者をたくさん獲得した人間が偉い」という価値観であり、結果がすべてであるビジネスの世界と相通ずる。

 その起業家精神の矛先は、アメリカ国内にとどまらない。福音派はいわゆるグローバル・サウス――発展途上国や格差が極めて激しい地域を中心に、積極的に信者獲得のために進出している。

「カトリックはヒエラルキーがはっきりしていて、“上”が司令を出すことで組織が動きますが、福音派にはそのような指揮命令系統はなく、“下”から草の根的、“野良”的にラテンアメリカやアジア圏の韓国、フィリピンなどに入り込み、カトリックからの信者横取りを含めて勢力を拡大しています」(同)

 島村一平著『ヒップホップ・モンゴリア 韻がつむぐ人類学』(青土社)によれば、欧米の資源採掘企業などに搾取され、厳しい競争社会から脱落者を多数生んでいるモンゴルでは、福音派はアメリカで行っているような貧困層向けの手厚い援助という“実弾”の力で、信者が人口の3%を占めるに至ったという。

 だが、“密”なコミュニケーション空間や福祉の場を提供し、エンタメ色の強い大集会・イベントで一体感を醸成してきたメガチャーチは、先述の通り集会を禁止されたコロナ禍で苦戦している。マーケティングを駆使したニューノーマル適応戦略を確立して勢力を維持・拡大するのか、引き続き非科学的な態度で問題を連発するのか(その2つの並立も十分あり得る)――。コロナ禍以前の状態に戻るほうが都合がいいのに反ワクチンの一大勢力であるという矛盾を抱えた福音派の動向からは、今後も目が離せない。

マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャーや出版産業、子どもの本について取材&調査して解説・分析。単著『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)など。「Yahoo!個人」「リアルサウンドブック」「現代ビジネス」「新文化」などに寄稿。単行本の聞き書き構成やコンサル業も。

いいだいちし

最終更新:2021/06/14 10:00
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