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顧客を創造する宗教右派!【1】

トランプを支える宗教右派のマーケティング! ドラッカー的ビジネスで信者獲得……ワクチンを信じない福音派の布教

福音派が主催するライブにカニエ・ウェストも登場

トランプを支える宗教右派のマーケティング! ドラッカー的ビジネスで信者獲得……ワクチンを信じない福音派の布教の画像2
メガチャーチの代表格として知られるテキサス州ヒューストンのレイクウッド教会。(写真:Getty Images)

……と、以上の通り日本のメディアでは福音派の右派的な面や近代科学を受け入れない狭窄な面がクローズアップされがちだが、そればかりではない。

「大前提として、福音派自体はカルトでもなければタブーでもありません。彼らの活動には当然、良い面もある。例えば、『すべての子どもは神が祝福して生まれてくる』という理由で妊娠中絶に強く反対するアメリカの福音派は、世界中から養子縁組を募って孤児・遺児などを引き取り、里親支援をしています。また、熱心な信者は真面目によく働く“いい人”であることも少なくありません」(同)

 日本企業をはじめアメリカ南部に工場を設立する会社は多いが、その理由としては、法人税が安いこと、保守勢力が強いことの裏返しで、労働組合の力が弱いこと、そして勤勉な福音派の低賃金労働者が豊富なことが挙げられる。

 福音派をどうとらえるにせよ、まずはその複雑な(しかし、極めてアメリカ的な価値観に拠る)多面性の理解から始めるべきだろう。福音派はカルトと呼ぶには大きすぎ、人々の生活に根差しすぎている。だいたい、反社会的な存在ならマジョリティから忌避されているはずだが、長らくプロテスタント主流派が信者数を減らしてきた一方で、福音派は勢力を拡大してきたことの説明がつかない。

 中でも郊外や田舎に広大な敷地を持つ「メガチャーチ」と呼ばれる、礼拝出席者数2000人以上の教会は、60年代初頭には全米で16しかなかったが、00年には600、07年には1250、20年には1500前後と増え続け、上位50位は平均出席信徒数が週1万人以上にも及んでいるのだ。さらに、従来のメガチャーチは白人向けのものが中心だったが、ヒスパニックも惹きつけている。中南米からの移民はもともと4分の3がカトリックであり、その中には聖書を一字一句信じる福音派も2~3割含まれている。

「最近では、表向きは福音派とうたわず、『ノン・ドミネーション』――つまりキリスト教徒であれば宗派を問わず受け入れるとして、礼拝者数を伸ばしているメガチャーチも増えています」(前出・松本氏)

 では、具体的にどのようにして信者を獲得・維持しているのか?

「アメリカは基本的に車社会で、家は一軒一軒離れていて近所付き合いは希薄です。だから、人々はコミュニケーションに飢えている。それが休日にメガチャーチに車で行くと、駐車場から教会の建物までミニバスに乗って移動したりと、人と人とが自然に近づき、会話が発生するような導線が設計されています。敷地内にはジム、映画館、コンサートホールなどがあり、野外ライブが行われていたり、子どもが遊べる場所もあったりしますし、おいしい食事も安く済む。私が訪れた全米トップ10に入る規模のサドルバック教会では、初めて来た人向けに、そこらのファストフードとは格が違う上質なハンバーガーとコーヒーの引き換えチケット、教会のロゴ入りタンブラー、そして聖書を無料で配っていました。さらには、各種の趣味やスポーツのコミュニティに参加することもできれば、家庭や心に問題を抱えた人向けのカウンセリングや自助会もあったりする。アメリカの医療保険は高額ですが、富裕層からの寄付金を使って教会が信者に安く保険加入できる仕組みを用意し、福祉を担ってもいます」(同)

 そのほか、シングルマザー向けの交通手段の提供、無料の健康診断や法律相談、雇用面談などを提供するメガチャーチも存在する。

 加えて、福音派が主催するライブには、CCM(コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック)と呼ばれる布教・伝道を目的とした歌詞を歌うポピュラー音楽のミュージシャンだけでなく、ラッパーのカニエ・ウェストのように福音派の広告塔といえる存在になった著名アーティストも参加する。あるいは、音楽以外でも著名人をインフルエンサー・マーケティング的に起用したエンタメ色の強いイベントを通じて、リアル/オンライン(SNS)問わず集客を図っている。

 かように、生活に根差した実利や娯楽を提供して“顧客ニーズを満たす”ことで人々を引き寄せ、それを入口に福音派が考える聖書解釈を伝えていく。

「牧師の説教も起承転結が練り上げられ、聞く者を飽きさせません。心を打つように非常に訓練されていますね」(同)

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