ディープステート、不正選挙、コロナデマ……Qアノンの日本版「Jアノン」も! 広がる陰謀論とGAFAの対応
#Qアノン #GAFA
――近年、世界的に陰謀論が蔓延しており、その拡散装置として、フェイスブックやYouTubeが使われてしまっていることから、GAFAに対する批判も出ている。一体、なぜ今の時代に荒唐無稽な陰謀論が広がるのか? そして、それらに対してGAFAは、どのような対策を立ててきたのか?(月刊サイゾー2021年4・5月号「新タブー大全’21」より転載)
新型コロナウイルスは、闇の組織が人類を支配するために生み出したもので、ワクチンを接種すると体内にマイクロチップが埋め込まれる……そんな荒唐無稽な言説が、一部で熱狂的な支持を集めている。
このような陰謀論は主にインターネット上で、SNSや動画サイトなどを通じて拡散されている。その内容について「バカバカしい」と一笑に付すのは簡単だが、米国では陰謀論の信奉者たちによって連邦議会議事堂が襲撃されるなど、シャレにならない事態も発生している。さらに、米国に限らずこれらの言説は今や世界中に“輸出”されており、日本でも独自の発展を遂げているという。
荒唐無稽な陰謀論が支持される背景には、どんな事情があるのか。また、世界的なIT企業であるグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル(GAFA)は、これら陰謀論にどう対処しているのか。識者に話を聞きながら探っていく。
JアノンはQアノンと別物! 陰謀論の焼き直しと再利用
今、世界中で急速に広まっている陰謀論の代表格とされるのが、「Qアノン」と呼ばれる集団だ。彼らは、この世界が少数のエリート層によって構成された“ディープステート(闇の政府)”に支配されており、ドナルド・トランプ氏は彼らの悪行に終止符を打つべく現れた救世主だと主張している。このディープステートでは悪魔崇拝や小児性愛、人肉食などが行われており、民主党の大物政治家やハリウッドセレブなどがメンバーに名を連ねているという。そして、それらの“真実”は政府の内通者を自称する「Q」という人物によって2017年頃からネットの匿名掲示板に投稿され、拡散していった。
トランプ氏の熱狂的な支持者による、現実離れした空想だと言ってしまえばそれまでだが、『世界の陰謀論を読み解く』(講談社現代新書)の著者で宗教学者の辻隆太朗氏によると「Qアノンの主張は過去の陰謀論のリメイク」だという。
「悪魔崇拝や小児性愛、人身売買といった要素は、陰謀論において特定の集団を攻撃するために使われる常套句です。古くは2000年以上前、キリスト教もローマ帝国から公認される前は『子どもをさらい、その生き血を使って悪魔的儀式を行っている』などと言われていましたし、そのキリスト教も中世に入って力をつけると、同じようなことを異端者や異教徒に向かって言い始めました。また、コロナに関する『増えすぎた人口をウイルスによって調整し、少数のエリートたちが管理する』といった筋書きは、フリーメイソンやイルミナティにまつわる陰謀論でもよく登場します。こうした言説において、エイズやエボラなどの伝染病が人口を減らすツールとしての役割を担っていたこともあるので、そこにコロナが入ってくるのは、ある意味で自然な流れといえますね」
一見するとぶっ飛んでいるQアノンの主張も、要素だけを見ればどこかで聞いたことのある話ばかりということだ。
Qアノンによる一連のムーブメントは、米国国内の問題であるように思えるが、日本でも保守勢力を中心に同調する動きがある。「Jアノン」と呼ばれているこの現象について、政治心理学の観点から「ネトウヨ」を研究する、京都府立大学の秦正樹准教授は、次のように語る。
「米国では大統領選以前から注目されていたQアノンですが、日本で関心を集めるきっかけになったのは連邦議会議事堂の襲撃事件だと思います。いわゆるネット右翼(ネトウヨ)と呼ばれる人たちの一部があの事件に乗じてQアノンの主張を語り始め、“Jアノン”と呼ばれるようになったのは、大統領選でのトランプ氏の主張に乗じ、さらにあの事件でQアノンの主張が日本でも知られるようになったことが背景にあると思っています」
1月6日に議事堂が襲撃を受けてから数日間、ツイッター上では「トランプ大統領が戒厳令を発令」「オバマ前大統領を含む民主党の大物議員らが大量に逮捕される」「戒厳令は“緊急放送システム”を用いて世界中に伝えられる」といったような風説が飛び交った。そしてそれらの情報を拡散していたのは、いわゆるネット右翼と目される人々である。日本の右翼勢力の中には親米のスタンスを取る者も多いが、なぜここまで突飛な言説を支持するに至ったのだろうか?
「ネトウヨにもさまざまな思想やグループがあり、一枚岩というわけではありませんでしたが、共通のアイコンとして一定の拠り所として機能していたのが安倍晋三氏だと思います。特に2012年以降、彼らが安倍氏を旗印に集結したことによって、ネトウヨがひとつの勢力として認識されるようになったと言う側面があります。そして、そんな安倍氏とトランプ氏の間には政治信条の共通点のみならず、個人的な友情関係もよく知られています。ネトウヨからすれば、安倍氏と親交の深いトランプ氏を攻撃することは、自分たちを攻撃するように感じられ、アイデンティティを傷つけられたように感じるのでしょう。また、Qアノンがリベラル勢力への攻撃を重視するのに対して,ネトウヨを中心とするJアノンは、トランプ氏を擁護することを優先しているように見えます。ジャーナリストなどの間でもQアノンとJアノンは似て非なるものと考えるべきという主張があります」
安倍前首相がネトウヨのアイコンとして機能し、そしてJアノンの誕生にかかわっているという点に関しては、拓殖大学非常勤講師として情報社会学を研究する塚越健司氏も同意する。
「安倍氏のもとで巨大化したネトウヨ勢力ですが、安倍氏が退陣してからは宙ぶらりんになってしまいました。というのも、安倍氏の後を継いだ菅総理が、右翼的な思想の部分を引き継がなかったからです。Jアノンは、安倍氏が抜けた後の心の穴を菅総理では埋めきれず、結果的にトランプ氏へ走ったと考えられます。そもそも、ネトウヨのような排外主義の人々が米国を支持するというのは、精神構造としては理解しやすいと思います。中国や韓国といった“敵”から自分を守ってくれる象徴としてトランプ氏を応援したいけど、そんなトランプ氏が“得体の知れない連中”によって窮地に陥っている。だから自分たちが応援しなければ……という思考に至ったのだと思います」
米国発の荒唐無稽な陰謀論は、このような経緯で日本に上陸したのである。また、欧州諸国などでも、日本と同じように現地で顕在化していた排外主義と結びつき、急速に広まっているという。
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