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日刊サイゾー トップ > カルチャー  > リュウジお兄さんをデジタル庁に迎え入れるべき理由

「バズレシピ」のリュウジお兄さんをデジタル庁の戦略顧問に迎え入れるべき

自社のやり方にこだわる日本企業の非効率

――そもそもリュウジさんなら、豆腐から飛竜頭を作らなさそうですよね。

S氏 そうそう。飛竜頭にオリーブオイルかけてチーズのせてオーブンで焼くと大変身、みたいな発想ですよね。飛竜頭を手作りしてどうするの、そんなの買ってくればいいじゃん、それも何でそんな非効率な工程なの、と思っちゃう。

――手作りだとすごくおいしいのができるとか。

S氏 せいぜい80点が90点に上がるくらいなら買ってくれば……って、本題はそれじゃなくて、いま私、コンサルタントとしてクライアント企業に入って、DXの案件ばっかりやってるんですけど。

――デラックスじゃなくて「デジタル・トランスフォーメーション」の方ですね。

S氏 そう。で、DXの本質というのは、アナログをデジタルに変えることだけではない。あわせてビジネスプロセスを大胆に見直さなきゃ、投資効果が出ないんです。

 たとえば、AというインプットからFというアウトプットを作り出す場合、BからEまでのプロセスを組み替えて、CとDは要らないよねとか、全てのプロセスをWという新しいソフトを使って置き換えちゃえとか。

――それによって納期が半分になるとか、それに関わる人員が3分の1になるとか、そういうものを狙ってるわけですよね。

S氏 まさにそれ。でも日本企業って、うちのクライアント含めて仕事のプロセスを全く変えたがらないし、仕事に人が張り付いているから人員を減らすようなプロセスの見直しもできない。

 システムでやりたいことを全社ヒアリングして、取捨選択せずに全部盛り込んじゃったりする。それも既存のやり方を変えないままに、自社独自のシステムをフルスクラッチで作る。

 欧米の大企業なら、業務の方を市販ソフトに合わせようとしますよ。だってそれは「バズレシピ」と同じ、頭のいい人が試行錯誤の末に磨き上げたベスト・プラクティスだから。なぜそれ通りにやらずに自己流にこだわるのか。それって、バカ丁寧な工程で豆腐から飛竜頭を作ってるテレビ番組と同じだと思うんです。

大企業のDX部門は「バズレシピ」を見よ

――なるほど、それがおっしゃりたかったと(笑)。しかしテレビの料理番組は、なぜそんなまどろっこしいことをしてるんですかね。

S氏 さあ。撮れ高が必要だから無駄な工程を入れてるのかな。昭和の専業主婦ならヒマだったから、バカ丁寧な工程の方がウケたのかも。当時は「手間ヒマかけるほど美味しくなる」という神話もあったりして。昭和の香りをいまだに残してる日本企業と全く一緒。

「バズレシピ」の発想はそれとは真逆。私が言いたいのは、リュウジさんの発想は現代のDXそのものということです。大企業のDX推進部門は「バズレシピ」をよく見たらいいですよ。なんならDX推進顧問としてリュウジさんを迎え入れてもいい。若手社員も大喜びじゃないですか。

――デジタルといえば、日本政府のデジタル庁というのもあります。

S氏 デジタル庁も単に紙をデジタルにするだけでなく、きちんとプロセスごと見直した本質的なDXをしなければならないけど。さらにいえば「バズレシピ」が面倒な料理をエンタメ化したように、苦痛で分かりにくい行政手続を少しでも楽しいものにできればいいですよね。

 いっそ日本政府は、リュウジお兄さんをデジタル庁の戦略顧問に迎え入れて、DXの本質をレクチャーしてもらってもいいのかもしれません。

――日本の行政手続には、すでにデジタル化しているものも一部ありますけど、使いやすいものに当たった試しがないです。あれはどこに原因があるんでしょうか。

S氏 これは匿名だからできる放言ですけど、政府から巨額な仕事を請け負った日系SIer(システムインテグレーター)の怠慢だと思います。

 本当は発注側の政府が悪いんですけど。仕様をきちんとまとめられないし、検収もちゃんとできないんだから。でも、それって仕方ないことじゃないですか、ITのプロじゃないんだから。

そういう状況につけ込んだSIerが「私たちは言われたことをやるだけです」とか言って、プロとしての的確なアドバイスを怠って、プロジェクトをただ長引かせて、儲けるだけ儲けてきたからだと思います。

――でも、紙での業務を変えたがらないとか、行政側にも問題あるわけですよね。

S氏 確かにそこは共犯関係みたいなもので。終身雇用を守るために、無駄な仕事の仕方を温存する必要があるんですかねえ。デジタル庁も、紙をデジタルに変えるだけでもマシとはいえ、それだけで終わるとまた負の遺産が積み上がりますよ。それを避けるには、もうリュウジさんの力を借りるしかないと思います(笑)。

<インタビューを終えて>

 タイミングよく、野村ホールディングスと野村証券が日本IBMを相手取り、計約36億円の損害賠償を求めた控訴審で、野村側が逆転敗訴したというニュースが流れてきた。

 野村證券の次長だったX氏は「パッケージソフトに合わせて業務を最適化する」という会社の方針に反し、自らの現行業務を維持することに固執。プロジェクト途中で追加要件を多発しつつ、日本IBMの担当者たちに「辛辣な他罰的、攻撃的発言」を繰り返したのだそうだ。

 まさにS氏が批判する、企業や行政のDXを阻害する担当者像そのものといえるだろう。発注側の強い立場を利用して横暴に振る舞う態度は、昭和の大企業サラリーマンそのものだ。その対極的な立ち位置にいるリュウジさんに、日本のDXの救世主の姿を見るS氏の慧眼に感心する。

鴨川ひばり(ライター、編集者)

1967年生まれ。出版社、ネットメディアなどで編集者を歴任。現在はフリーランスで活動中。

Twitter:@hujiie

かもがわひばり

最終更新:2021/06/10 19:00
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