拉致日本人含む12万人がいる北朝鮮収容所の内情 3Dアニメで描いた地獄絵巻『トゥルーノース』
#映画 #パンドラ映画館
北朝鮮が存在を否定している“強制収容所”、その驚愕の内情を克明に再現した3Dアニメーション映画が『トゥルーノース』だ。日本とインドネシアとの合作映画で、世界各国で公開されたドキュメンタリー映画『happy しあわせを探すあなたへ』(12)のプロデューサーを務めた清水ハン栄治監督の監督デビュー作となっている。アヌシー国際アニメーション映画祭、ワルシャワ国際映画祭、ナッシュビル映画祭、英国のレインダンス映画祭などで話題を呼び、いよいよ日本でも劇場公開される。
「実写で描くとホラー映画になってしまう」という理由からアニメーション表現を選択したと語る清水監督。アニメーション作品でも、超弩級の地獄絵巻となっている。家族のルーツを韓国に持つ清水監督は、北朝鮮の強制収容所に関するあらゆる文献を読み、さらに収容所体験を持つ脱北者たちや元看守へのインタビューを重ね、10年がかりで完成させた労作だ。実在の事件を題材にした韓国の実写映画『クロッシング』(08)でも北朝鮮の強制収容所内の様子が部分的に描かれていたが、収容所の全体像を描くことができたのはアニメーション表現だからこそだろう。
3Dキャラクターたちにはポリゴンっぽさが残っているが、むしろリアルすぎずに観客にとっては適度な緩衝材の役割を果たしている。多少の違和感は覚えつつも、物語が始まり、主人公一家が強制収容所送りとなってからは、感情移入していくことになる。温かみが感じられにくいと思われていた3Dアニメのキャラクターたちに次第に温もりを感じ、主人公たちの過酷な運命の連続に胸を引き裂かれてしまう。
物語の始まりは1995年。小学校に通うヨハンとまだ幼い妹のミヒは、両親と共に平壌でおだやかに暮らしていたが、幸せな少年時代は唐突に終わりを告げる。父親のヨンジンは「在日朝鮮人帰還運動」によって日本から北朝鮮に渡り、日本には親族が残っていた。翻訳家として働いていた父親は、ある日姿を消してしまう。どうやら、「政治犯」として逮捕されたらしい。保衛部員(秘密警察)が家宅捜査に現れ、ヨハン、ミヒ、そして母親のユリは「連座制」によって極寒の強制収容所へと送られる。父親が何の罪を犯したかの説明はなく、裁判もなく、保衛部員に逆らうことはいっさい許されなかった。
強制収容所は、さまざまな政治犯たちの家族が暮らす大きな街として機能していた。収容者たちは、みんな痩せ細っており、まるでゾンビのよう。収容所内の絶対的権力者として君臨するのは、収容者を人間扱いしない看守たちだ。ヨハンらは父親には会えないまま、割り当てられた狭いボロ小屋での生活を始める。支給される食料は、1日300グラム程度のトウモロコシのみ。子どもたちも坑道掘りなどの超重労働が朝から晩まで課せられる。1日のノルマを果たせないと、仲間たちまで連帯責任を取らされ、手を抜こうとすれば仲間から看守に密告されてしまう。食料事情も、労働環境も最悪。強制収容所は、まさに“生き地獄”と呼ぶのにふさわしい場所だった。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事