障害があってもなくても人生は素晴らしい! 映画『ラプソディ オブ colors』が描く、心のバリアフリー
#映画 #ラプソディ オブ colors
「障害者を見ると、死ぬこととか自分が老いることを想像しちゃう人が多くて、それでもう『生理的にやだ』って人が多い」
この映画の主人公のひとりである、バリアフリー社会人サークル「colors」の代表で、自身も障害者である石川悧々さんはそう言う。身体の不自由な人を見ると、自分がそうなったときのことを連想してしまうから見たくない、ということなのだろう。だが、障害者と健常者の間に明確な違いなどあるのだろうか? 障害者と健常者の世界ははっきりと分かれているものなのだろうか?
そもそも、この「健常者」というのは妙な言葉で、健常者だけの世界で生きている限り、普通この言葉は使わない。ところが障害者の世界に入ってみると時折、「あなたは健常者だからいいよね」といった言葉をかけられることがある。普通に笑ったり泣いたり、自分とそれほど違っているとは思えない相手から、「私とあなたは違うんですよ」と突きつけられたようで、自分のことを初めて「健常者」だと気づいた人は戸惑うことになる。しかし、「私とあなたはそんな違いませんよ」と言うのも、いかにも恵まれた立場の人間が言う上から目線のセリフに思えて、口をつぐんでしまう。そして、そして今日もまた「障害者」と「健常者」の間を隔てる壁が出来上がるという具合だ。
だが、あえて繰り返し問いたいのだが、本当に「障害者」と「健常者」はそんなに違う種類の人間なのだろうか?
いや、この映画に登場する介護ヘルパーの新井さんが言うように、「障害者も健常者も、たぶんほとんど違いはない」。その単純な事実に気づかせてくれるのが、この「ラプソディ オブ colors」という映画なのだ。
大林宣彦、黒木和雄、鈴木清順など、錚々たる監督たちのもとで助監督を務め、テレビドラマなど約20本を監督したのち、45歳でタクシードライバーに転職。その後個人ドキュメンタリーに転じたという佐藤隆之監督が、東京大田区にある民家を利用し、身体や知的の障害がある人やない人の居場所と交流の場として機能していた「colors」を2018年5月から撮影した素材は、実に1000時間以上に及んだという。
そこから編集された本作に登場する人物は、電動車椅子を使う頚椎損傷と脳の血腫による障害者でありふたりの娘を持つシングルマザーでありながら、「colors」の代表を務める石川悧々さん、大田区職員を3年半で退職し、障害福祉NPO法人を立ち上げた中村和利さん、「colors」の3階に住み、重度知的障害のあるげんちゃん、難病を持ち車椅子で生活しながら作曲やYouTube配信を続けるじょぷりん、脳性麻痺という障害を持ちながら、障害者風俗の世界に飛び込んだMayumiなど、実に多彩。映画に映し出されるメンバーたちの音楽イベントや飲み会で見せる表情は本当に生き生きしていて、障害があってもなくても人生は等しく楽しむことができるという当たり前のことを改めて認識させてくれる。
しかしながら本作に登場する障害者のなかには、「colors」のほかに出かけていく先がない人もいるというこの事実。映画の最後に、皆の居場所である「colors」は、大家の都合で取り壊されてしまう。愛すべき登場人物たちが集う場所は、その後どうなったのかが気になるところだが、それ以前に、障害者を排除して社会の片隅に追いやっている健常者こそ、実は本当の障害者なのではないかと、本作はそんなことまで考えさせる力を持っているのである。
『ラプソディ オブ colors』
2021年5月29日よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
公式サイト
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