米で急増するアジア人差別、白人コメディアンが粗野な“ジョーク”で大炎上「無知の極み」発言でキャリアがパア?
#スタンダップコメディ #Saku Yanagawa
アジア系へのヘイトが3カ月で2.6倍に……
現在アメリカではアジア系住民に対するヘイトクライムが増加し、深刻化している。
カリフォルニア州立大学の発表したデータによると、今年1月から3月の間に主要都市で報告されたアジア系への暴力を伴うヘイトクライムは例年の2.6倍にも及ぶといい、主な原因としては、コロナウイルスをアメリカに持ち込んだ元凶という認識があげられる。トランプ前大統領の「チャイナウイルス」という発言も少なからず影響していると、複数の専門家が指摘する。
今年1月にはオークランドのチャイナタウンで、中国系の91歳の老婆が道で何者かに突き飛ばされ大けがを負ったほか、2月にはタイ系の老人が襲われ転倒しそれが元で亡くなた。3月にはニューヨークの地下鉄でフィリピン系の男性が頬をカッターナイフで切られるという事件も起きた。そして同月にはアジア系の女性が多く働くアトランタのマッサージパーラーが標的にされる銃乱射事件まで起こり、多くの死傷者が出てしまった。
そうした中で多くの人々が立ち上がり、各地で抗議活動やパトロールを行ってきた。コメディ界もアジア系のコメディアンを中心に「#StopAsianHate」という合言葉を掲げ、声を上げてきた。
そして5月20日、こうしたヘイトクライムに対し、迅速に調査や捜査を進められるように、司法省に担当者を配置する法案が連邦議会下院を通過したばかりだ。
このような状況下でのトニー・ヒンチクリフの発言はもはや「ジョークだから」では済まされず、彼の契約する大手エージェンシーWMEは即日契約解除に踏み切り、彼の慕うジョー・ローガンも当面、自身のショーへのトニーの出演取りやめを発表した。
もちろん通常、録画の許されていないコメディクラブでの公演がこのように拡散することを本人は想定していなかったに違いない。そしてこれまでもこうした過激な発言ゆえに人気を獲得してきたという事実もある。しかし、その時代の「ギリギリのライン」がどこかということにもっとも敏感でなければならないスタンダップコメディアンが、このような状況下で放ったこの「ジョーク」はおよそ軽率で擁護のしようもないものだ。
コメディアンたちもこの一件を受け、彼に対し厳しい意見を述べている。僕自身が活動するシカゴでも多くのコメディアンが「センスのないジョーク」「状況をわかっていなさすぎる」「無知の極み」と一刀両断した。報道のあった翌日の楽屋でも、多くの同僚たちから、「あのジョークについて、お前はどう思うんだ?」と「アジア系として」の意見を求められたのが印象的だった。
今、トニー・ヒンチクリフの置かれた立場は、この「キャンセルカルチャー」下において極めて厳しいと言わざるを得ない。ひとことの軽率な発言がコメディアンとしてのキャリアを一瞬で滅ぼしかねない。まさしく「キル・トニー」になりかねない状況だからこそ、私は「アジア系として」、彼に対しては反省と、より一層のアップデートを期待したい。
<トニー・ヒンチクリフ>
1984年オハイオ州生まれ。2007年にロサンゼルスでコメディアンとしての活動をスタートさせると、コメディセントラルの『ローストマスター』への出演で人気を博す。ジョー・ローガンとのツアーも精力的に行うほか、自身がホストを務めるポッドキャスト番組『キル・トニー』は月間200万ダウンロードを記録する人気を見せている。
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