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舞台『蟻地獄』特別インタビュー

インパルス板倉俊之「答えを出してから死にたい」──小説とお笑いの間で続ける人体実験のゆくえ

「『どうしてもテレビ出たい』っていう人に、勝てるわけないんです」

インパルス板倉俊之「答えを出してから死にたい」──小説とお笑いの間で続ける人体実験の画像4

――板倉さんから見て、芸能界は『蟻地獄』だなって思うことはありますか?

板倉 うーん……悩んでない人なんていないなって思って見てます。スターの人はスターの人なりの悩みがあるだろうし。誰しも同じ分量の悩みを抱えるようにできてるんじゃないかなって。だからそう思うと、誰のこともあまり羨ましくないです。『スター・ウォーズ』のフォースとか使えるようになるんだったら、それに僕はなりたいですけど。現実世界にはいないかな。だって合衆国大統領だって大変だし、どこまで行ったってね。

――何か、人生の目標みたいなものはありますか?

板倉 自分なりの答え出したいですね。

――お金をいっぱい儲けたいとか、そういうことはないですか。

板倉 あぁ……あぁ……(悩)。

――でも俗物にも引っ張られる……。

板倉 そうなんですよね! マジでこいつ偉そうなこと言ってんじゃねえよって思う瞬間あるんですよ、自分なりに(笑)。お前何日ゲームやってんだよ、みたいな。何が「人生の謎を解き明かす」だバカ、みたいな。だから、そこの客観はあるんですよ。

――面白い(笑)。

板倉 「馬鹿だなこいつ」って思いますよ、もう一人の自分が。

インパルス板倉俊之「答えを出してから死にたい」──小説とお笑いの間で続ける人体実験の画像5

――インパルスはすぐにテレビで人気者になって、これから順風満帆かと思いきや、いろいろありましたよね。それも、板倉さんご本人がどうにもしようがないところで、アクシデントが起きてきた。絶望的な気持ちになることはなかったですか。

板倉 実は『トリガー』書いてた時って「これ出したらすべてが変わる」と思って信じて書いてたんですね。ただ出しても別にそこまで変わらず。希望を持って書いては絶望し、それを繰り返しているうちに、すごい自分を客観で見るようになっちゃって。

――あぁ……。

板倉 「またかお前」ですよ、今なら(笑)。最新刊出しましたけど今年も。『鬼の御伽』(KADOKAWA)っていうの出しましたけど、今度こそと思ったけど、「うん、うん……またこれか」っていう。なんか、客観視しちゃって。まあそもそもね、エンターテインメントはこれ以上もう必要なのかっていうくらい溢れてるんで。今生まれてきた子が、死ぬまで今後一切新しい作品が生まれなかったとしても、もう足りてるくらいなんです。そこに自分の作品をねじ込もうとしている、っていうことが結構なことだから、まあ売れなくても当然かなって。

――客観というかもう俯瞰……。

板倉 ただそこに踏み込みすぎると、今度は書くエネルギーが湧かないから、書いてる時っていうのは、『これで必ず何か変わる』って信じてるんです。でも書き終わったら、『はい、期待しなーい』って(笑)。

――自暴自棄にならずに切り替えられるのがすごい。

板倉 主観ばっかりで生きてるとそうなるかもしれないですね。だって別に僕がいようといまいと変わらないっすから、世界は。特に、直接人を助ける仕事じゃないわけだから……。

――コロナの時代を経験して、板倉さんの中で何か変化はありましたか。エンタメ業界にとっては大変なことがあまりにも多すぎたと思いますが。

板倉 そうですね。みんな、考え方少し変わりましたよね。「田舎で土地買って過ごしたほうが人間らしいんじゃないか」とか。いろいろ価値観が変わった感じがしますね。

 やっぱり傲慢さは持たないほうがいいな、と思うんです。エンターテインメントって所詮……さっき言ったように、ギチギチにもう、たくさんあるわけですから。タレントとしてもそうかもしれないですよね。芸能界っていう、ギチギチに出来上がってるところに自分をねじ込もうとして弾かれるのは仕方ないだろうと。僕みたいな、自分でつくったものを表現するっていうことに一番喜びを覚えるタイプの人は、確かにタレントって向いてないのかもしれない。だって「どうしてもテレビ出たい」っていう人に、勝てるわけないんです。僕はそこに向き合ってないから。

――テレビはひとつの表現方法の場という感じですか?

板倉 まあそこでできればよかったんですけどね、お笑いを。『ごっつええ感じ』みたいな番組をテレビでやりたいって、僕も若い頃言ってたんですよ。「ああいうのがやりたくて入ったんだ」って。ただふとね、じゃあ実際に「あ、いいっすよ。じゃあ毎週1時間全部考えてください」って言われたら「あ、俺追いつかない」とも思った。俺は俺でダサい。「やりたいやりたい」って、結局できないこと言ってんじゃんと思ったら、そこでまた丸くなりました。

――すごいですよ、その考え方は。だって自分の能力の問題ではなく、今はもうそんな予算もないし時代でもないことを言い訳にしたくなっちゃう……。なかなか自分の「ダサさ」を認められない。

板倉 ツッコミ入れてるんですよね、自分に。でもまあ事実とは向き合わないといけないですよね。自分のダサさが目下あるのに、そこを棚に上げちゃうのはあまり好きじゃないですね。俯瞰的に見ていくとほとんどの問題は「あ、仕方がないんだ」ってことなんですよ。困ってる人がいたとして、でもこっちの人を救うとこっち側がポシャるから「あ、救えないんだ」とか。全部仕方がないっていう。

――板倉さんのお話は仏教的ですよね……諸行無常というか……。

板倉 僕、仏教でいえば「色即是空」って言葉を聞いたときに、あれを救いと取る人もいるけど、僕は絶望と取ったんですよ。実体としての俺がいないのだから、俺がむかつくことも悲しむなんてこともないっていう考えが。それって意味ないってことで、僕はそれには抵抗したいんですよ。意味がある側の答えを見つけたい。人間としての自分で人体実験しながらそれを探していきたいです。

(写真/二瓶彩)

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板倉俊之(いたくら・としゆき)
1978年1月30日、兵庫県生まれ。1998年、東京NSC4期生の同期である堤下敦とお笑いコンビ「インパルス」を結成。『はねるのトびら』(01~12年/フジテレビ系)はじめ、バラエティ番組で活躍する一方、09年『トリガー』(リトルモア)で小説家デビュー。2021年1月25日には小説5作目になる『鬼の御伽』を出版した。

舞台『蟻地獄』
公演日:2021年6月4日(金) ~ 2021年6月10日(木)/会場:よみうり大手町ホール
脚本・演出:板倉俊之
出演:髙橋祐理、天野浩成、向井葉月、山口大地 他
公式サイト<https://arijigoku-stage.com/

西澤千央(ライター)

1976年、神奈川県川崎市生まれ。フリーライター。「文春オンライン」『Quick Japan』などで連載中。ベイスターズファン

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Twitter:@chihiro_nishi

にしざわちひろ

最終更新:2021/05/31 12:00
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