事故、入水自殺、東日本大震災の津波……海から遺体を引き上げる民間ダイバーの“ギリギリ”な現場
#東日本大震災 #ダイバー #遺体
震災で空いた穴が閉じていく前に
――矢田さんはもともと東日本大震災の取材からスタートしたそうですが、完成したこの本は震災のことに限らず、仕事や死について、東北について、さまざまに考えさせてくれる本になっています。著者としては、どんな人に特に読んでもらいたいですか?
矢田 そこは今もすごく自分でも悩んでいます。なぜ私がこれを書いたのかにも関係してくるんですが……東日本大震災の取材に何度も何年も通っているうちに、友人から「被災地を案内してほしい」と言われるようになったんですね。ところが、震災から2~3年も経つと復興が進んできて、瓦礫がなくなって更地になって、場所によっては新しい家を建てようとしている土地に見えるようになって、だんだん案内できるところが減っていきました。そういう中で「あれ?」と違和感が生まれてきた。震災の痕跡が徐々に見えなくなっていくわけです。もちろん、現地は復興を必要としていますので、壊れた生活が回復していくことは歓迎すべき事態なんですが、このままいくといつかあの震災がなんだったのか、経験者以外には見落としたまま見えなくなるという、焦りにも似た感情が湧いてきました。
震災で空いた大きな穴が閉じて見えなくなっていくようなイメージがあって、穴の中には痛ましい出来事がある。それが閉じきる前に何か書き残しておきたかった。震災でたくさんの方々が亡くなられたことと、今も生きていらっしゃる方がいることの両方を伝えたくて、今回の本を書いたつもりです。僕は震災の後にボランティアに行きましたが、それだけでは感じられない生の声があったし、被災者のみなさんの会話に立ち入ることができなかったこともたくさんありました。ですからその後、現地の方と知り合って時間を積み重ねる中で、当時は聞けなかった部分、表になかなか出てこなかった部分を今回、吉田さんの人生を通じて別の形で記していった――そんな見方ができるかもしれません。
もし、そんな切り口に興味をもってくれる方がいれば、読んでほしいなと思っています。
矢田海里(やだ・かいり)
1980年、千葉県市川市生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒。在学中、イラク戦争下のアメリカ合衆国を自転車横断しながら戦争の是非を問うプロジェクト“Across-America”を行い、この体験を文章にまとめた「アクロス・アメリカ」を執筆、雑誌「かがり火」に連載。また、2011年からはマニラのストリートに暮らす人々を見つめるドキュメントの制作にも着手。以降、人の内面の光と影を追いながら取材活動を展開。東日本大震災直後に現地入りし、現地に居を構えながら被災した人々の声を拾う活動を続ける。ユネスコなどと共同し、全国で震災写真展を開催。放送批評雑誌「GALAC」に「東北再生と放送メディア」を連載。スポーツ・冒険マガジン「ド級! 」でエクストリーマーのひとりに選ばれる。
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