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日刊サイゾー トップ > 社会  > 海から遺体を引き上げる民間ダイバーの“ギリギリ”な現場

事故、入水自殺、東日本大震災の津波……海から遺体を引き上げる民間ダイバーの“ギリギリ”な現場

笑い話にして自分を保つしかなかった

――あまりにもしんどいがために、吉田さんが反動のように遺体を引き上げ終えた後に笑うこと、遺体について笑い話にすることで、なんとか自分を保つしかなくなったというエピソードが非常に印象的です。

矢田 私が最初に吉田さんに出会ったのは東日本大震災直後の避難所だったこともあって、みんな必死な状況なのに遺体を探しに潜っている人が現場で笑っている話をするなんて失礼だし、不謹慎だと思いました。でも、その後、吉田さんから何度も話を聞いていくうちに見方が変わったときがあった。そうすることでしか吉田さんは遺体を拾い続けることができなかったんだろう、と。そして、彼がいなければ引き上げてもらえなかった遺体もある。取材を通じて震災中心に物事をとらえることから吉田さん個人に焦点を変える過程で、「ギリギリの行為としてやってきたんだな」と時間をかけて少しずつ私も思えるようになりました。ですから、震災直後だったら、あの話は書けなかっただろうと思います。

――その「ギリギリさ」は、ちょっとした手がかりや勘をきっかけにした遺体発見が続く中で、何か不思議な力が自分にはあるんじゃないかと吉田さんが思うようになっていったことからも感じました。ただ、自分に超常的な力があるかもと思いながらも霊能者が介入してくることは拒んだ。しかし、遺族が「夢に出たんです」などと言えば、納得してもらうためにその方向に潜ったという判断基準が興味深かったです。

矢田 現場は殺気立っていることも多いようで、ご家族の方はもちろん平常心では来られないですし、警察はじめ関係機関も緊迫しているし、その中で結果を出さないといけない。だから、適当に探すわけにはいかず、吉田さんは「こういうときはこうなりやすい」といったデータを積み上げていった。けれども、そんな彼でさえ偶然では片付けられないような「なんでこんな当たるのかな」という経験が何度もあって、それで合理的なもの以外に理由を求めてきたのかもしれないですね。

 ですから、自分に特別な力があるのかもと思う部分があったとしても、吉田さんは基本的には水の流れなどから非常に合理的に捜索活動を進めていくんです。それなのに、そういうことを知らない霊能者が「いや、こっちだ」なんて言い出すと怒る。でも、行方不明者の家族が言うことなら「やってみよう」と。そもそも遺体の捜索は、亡くなっているとしてもお葬式をあげてあげたい、遺骸であってももう一度会って区切りを付けたいというご家族が「納得」するためにしている部分もあるわけですから、彼らの意向をうかがう。たとえ見つからないとしても遺族の納得の気持ちを得るためにやるというのが、吉田さんの一貫しているところだと思います。

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