『関ジャム』キリンジ「エイリアンズ」大好きすぎ問題。冨田ラボの“成熟しきっていないものの美”
#関ジャム #キリンジ #冨田ラボ #岩崎太整
5月16日放送『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)が、なんと1時間丸々で音楽プロデューサー・冨田ラボを特集した。というわけで、この日は冨田本人がスタジオに登場している。これはまた、凄い人が来たもんだ……。
なぜ、今回は冨田の特集なのか。話は同番組(3月3日放送)が発表した「プロが選ぶ2000~2020年“最強のJ-POPベスト30”」まで遡る。アーティスト、作詞家、作曲家、プロデューサーといった音楽のプロによって選出されたこのランキングで3位になったのはMISIA「Everything」、16位はキリンジ「エイリアンズ」だった。実は、どちらの曲もプロデュースとアレンジを手掛けたのは冨田なのだ。
そして、2つの曲の凄さを解説するのは作曲家の岩崎太整だ。“最強のJ-POPベスト30”で岩崎が1位に挙げたのが「Everything」、2位に挙げたのは「エイリアンズ」だった。それにしてもこのランキング、何度見ても「エイリアンズ」だけが妙に浮いているな……。
アレンジというより裏メロディーを作り直している富田ラボ
まず、取り上げるのは「Everything」だ。これを聴くと、筆者はどうしてもドラマ『やまとなでしこ』(フジテレビ系)を、もしくはMISIAのものまねをする森三中・黒沢かずこを思い出してしまう。それくらい日常に密着したスタンダードだということ。つまり、いいバラードとは思うがそこまで特別な曲だと意識したことはなかった。
「一聴すると単純に名バラードと思われるかもしれませんが、実はメロディーの裏で凄く複雑なコード進行が展開している。それでいて曲としては難しく聴こえません。シンプルで美しい旋律にオートクチュールのような綿密で素晴らしいアレンジが施されている、まるでシンデレラのような曲」(岩崎)
「Everything」イントロの楽譜を見ると、岩崎の説明に納得する。想像以上に凄まじい音符とコードの嵐だ。ただ、この曲にはシンプルで美しいメロディーも存在する。最初から「Everything」は素晴らしい出来だった。元のメロディーを残し、原曲のコード進行を改めて作り直していったのが冨田の仕事だと岩崎は説く。つまり、余計なことをしなければコードはもっとシンプルにできたということ。岩崎はなんと、その“シンプルヴァージョン”をわざわざ作ってきてくれた。こちらのヴァージョンを聴いた感想は、素朴。あと、R&Bではなくニューミュージックに近い印象を受けた。歌本に載っているようなコード進行だ。ギターで弾くとしたらこっちのコードになるだろう。
“シンプルヴァージョン”を聴いた上で冨田が手掛けたコードを聴き直すと、驚く。一気にゴージャスになるし、お洒落なコード進行だと思い知るのだ。今後、「Everything」を聴く際はヴォーカルよりバックのアレンジに集中したくなるな……と思ったが、いや、恐らくそれは違う。この曲には、複雑なアレンジに負けない歌が必要だ。「オートクチュールのようなアレンジ」と岩崎は表現したが、キラキラした装飾に“着られる”のではなく装飾をちゃんと“着こなせる”MISIAも凄い。
ただ、作曲家にしたらいかがなものか? あまりに好き勝手にコードを弄られて「やり過ぎだ!」と憤る人はいないのだろうか。
「う~んと……若い頃はあったような気もします(笑)」(冨田)
「若い頃」ということは、大物になった現在の冨田には誰も物申せない? まあ、そこまでやってほしい人が冨田に依頼するのだろう。彼のアレンジからは、スティーリー・ダンを彷彿とさせる完璧主義と緻密さを感じる。事実、冨田はスティーリー・ダンの名盤『ナイトフライ』を解説した書籍『ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法』(DU BOOKS)を執筆するほどのスティーリー・ダン信捧者だ。
ただ、複雑なコード進行が難しく聴こえないのはなぜなのだろう? 試しに冨田が「Everything」のイントロを弾くと、気付かないところで4つのメロディーが動いていることがわかった。それぞれを独立させて聴くと、4つの内3つは非常にメロディアスだ。だから、耳でキャッチしやすい。それが難しく聴こえない理由だ。でも、残る1つのメロディーが異様に奇妙なのだ。実は、この不協和音によって曲が俄然ドラマチックになる。
コード云々と言うより、冨田は裏メロディーを新しく作り直しているように見える。日本人は作曲家に畏敬の念を払いがちだが、編曲者やアレンジャーも大事なのだと知れ渡り始めたのはこの番組のおかげだと思う。冨田のアレンジで曲が劇的になったから、『やまとなでしこ』では堤真一に同情してしまったのだよな……。
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