トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ  > 大河ドラマの「西郷隆盛」は虚像だらけ?

大河ドラマの「西郷隆盛」は虚像だらけ? 薩摩弁、ファッション、人間性…史実とフィクションのギャップを紐解く

西郷の伝記の出版数はイエス・キリストに継ぐ第2位

大河ドラマの「西郷隆盛」は虚像だらけ? 薩摩弁、ファッション、人間性…史実とフィクションのギャップを紐解くの画像3
軍服姿の西郷隆盛(床次正精作)

 世間の誤解として、西郷隆盛といえば“清濁併せ呑む”タイプ、包容力が大きい人物というものがありますが、これもほぼ事実無根といえる設定ですね。史実の西郷の人間の好き嫌いの激しさについてはすでに述べましたが、一度「こいつはダメだ」と思い込んだら、最後まで冷たい態度を変えないことでも有名でした。

 創作物の西郷と、史実の彼との違いはまだまだあります。実物の西郷は権力欲には乏しい一方、贅沢で快適な暮らしへの思いは非常に強く、“オシャレさ”で知られた人物だったので、物欲も相当にありました。

 自分がルックスにこだわるタイプなので、相手の外見や喋り方だけで「こいつはダメ」と判断して失礼に振る舞うことがあった、という話もあります。『青天~』にも登場していましたが、ナレーションだけで死亡が通知される“ナレ死”を遂げた福井藩士・橋本左内(小池徹平さん)と、西郷は盟友でした。

 しかし、その橋本左内についても、初対面では彼の見た目が華奢で、喋り方が女子供みたい(若者っぽい)というだけで、西郷はまともに質問にこたえず、「私は相撲ばかりしております」とナメた解答をするだけでした。

 それでも負けずに橋本が自分の国政への熱い思いを語るのに感動した西郷は「私が間違っていた! 悪い態度を許してくれ!」と謝り、橋本とは仲良くなれたというのです(『実歴史伝』巻之二、海江田信義の回想より)。本当に悪かったと思ったら、自説の撤回も躊躇なく行えるところは、西郷の強みでした。が、イメージが本当に独り歩きしている人物であることは、おわかりいただけたかと思います。

 国立国会図書館の調査によると、全世界で出版された偉人伝の類の中で、西郷の伝記の出版数は、なんとイエス・キリストに継ぐ第二位なのだそうです(家永良樹『西郷隆盛』)。それも西郷隆盛の実像がいまだ、謎に包まれていることとは無縁ではないでしょうね。

<過去記事はコチラ>

堀江宏樹(作家/歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。原案監修をつとめるマンガ『La maquilleuse(ラ・マキユーズ)~ヴェルサイユの化粧師~』が無料公開中(KADOKAWA)。ほかの著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

Twitter:@horiehiroki

ほりえひろき

最終更新:2023/02/21 11:48
12
ページ上部へ戻る

配給映画