『関ジャム』椎名林檎の異常なこだわり…サブスク時代に“アルバム単位”で音楽を聴くことの意味
#椎名林檎 #関ジャム #Tempalay #大橋トリオ #ヒャダイン
5月9日放送『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)が行った企画は、題して「プロが選んだ アルバムで聴いて‼ J-POPの名盤」。この日、番組の冒頭でこんな会話があった。ゲストの鷲見玲奈とヒャダインによるやり取りだ。
鷲見 「私、サブスクでアルバムを買うと、結構シャッフルとかで聴いちゃうんです」
ヒャダイン 「良くないよ!」
しょせんは商業音楽、別に良くなくはない。娯楽であり、どう楽しむかは個人の自由だ。フィジカルでCDを購入する人は間違いなく減っているだろうし、アルバム1枚通して聴くなんてもはや少数派だと思う。アルバム全体を理解するため6~7曲目辺りの“捨て曲”を聴き込み、強引に好きになるという向学心(?)も今や昔の話。サブスク全盛の今、ピンと来なければ途中でスキップする食わず嫌いは珍しくない。そんな時代にこの特集は行われた。
椎名林檎『勝訴ストリップ』の狂ったような構成
アルバム単位の聴き方には筆者も愛着があり、パッと思い浮かぶのは『ヘッド博士の世界塔』(フリッパーズ・ギター)である。『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(ビートルズ)と同じく、曲順を変えずに最後まで聴きたい作品。また、『家庭教師』(岡村靖幸)の世界観は1枚通して聴かないとわかるはずもないと確信している。どちらも、「アルバムで聴いて‼」と訴えたくなる作品だ。
ちなみに、昨年10月11日にも同様の企画が行われており、そのときに紹介されたのは以下のアルバムだった。
『Atomic Heart』(Mr.Children)『Q』(Mr.Children)、『AINOU』(中村佳穂)
『JUNK LAND』(玉置浩二)
『音タイム』(ハナレグミ)
『CEREMONY』(King Gnu)
『HEART STATION』(宇多田ヒカル)
『無罪モラトリアム』(椎名林檎)
『愛をあるだけ、すべて』(KIRINJI)
『風の果てまで』(斉藤和義)
『FAKIN’POP』(平井堅)
『COZY』(山下達郎)
『s(o)un(d)beams』(salyu X salyu)
『GUYS』(CHAGE and ASKA)
『Heaven’s Kitchen』(BONNIE PINK)
『TITY』(BREIMEN)
『playlist』(私立恵比寿中学)
『FACES PLACES』(globe)
『家庭教師』(岡村靖幸)
『青春のエキサイトメント』(あいみょん)
今回の選者であるAAAMYYY(Tempalay)が取り上げたアルバムは、『勝訴ストリップ』(椎名林檎)だった。仕掛けが多い次作『加爾基 精液 栗ノ花』が企画趣旨に合う気もするが、今作は今作で語りがい十分。AAAMYYYが言及したのは、“曲の繋がり”である。10曲目「サカナ」から11曲目「病床パブリック」への流れを彼女はこう解説する。
「スローな曲に陶酔しつつ、バツっと急に曲が切れたかと思えば豪快に歪んだアップビートで唐突に次の曲が始まる。曲の“つなぎ”だけで、ご飯何杯かイケる」(AAAMYYY)
優れたアルバムほど“つなぎ”が秀逸な作品が多い。例えば、岡村靖幸『家庭教師』。4曲目「家庭教師」では不穏で変態チックな空気にしておいて、5曲目「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」が始まるやキラキラした放課後へ一気にワープするあの一瞬の間。確かに、ご飯何杯でもイケる。
AAAMYYYが指摘した『勝訴ストリップ』の仕掛けはもう1つある。7曲目「罪と罰」を中心に、曲タイトルの文字数、漢字、平仮名、カタカナの配置をシンメトリーに配置したというこだわりだ。これは同作に限ったことではなく、以降の作品でも椎名はタイトルをシンメトリーにし続けた。幼少期、手術の影響で左右のバランスがとれない障害が残った彼女ならではのシンメトリーへのこだわりと言われている。
ちなみに、『勝訴ストリップ』の収録時間は全曲を合計して55分55秒。このこだわりも異常だ。似た仕掛けで思い出されるのはYMOの『BGM』で、10曲中8曲の演奏時間をほぼ4分30秒に統一している(例外は、元が坂本龍一ソロ曲の「千のナイフ」と「来たるべきもの」の2曲)。どちらのアルバムも狂っている。
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