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「ご不快な思いをさせて申し訳ありません」…炎上企業はなぜ「ご不快構文」で火に油を注ぐのか? ジャーナリストに聞いてみた

「ご不快な思いをさせて申し訳ありません」…炎上企業はなぜ「ご不快構文」で火に油を注ぐのか? ジャーナリストに聞いてみたの画像1
後述する、炎上した紙オムツ「ムーニー」のPR動画(@moonypromotion)より

 近年、ジェンダー表現を中心に企業の広告やSNS発信が炎上を繰り返している。そして、炎上後、多くの企業は表現の取り下げを行ってきた。

 取り下げと共に公開される謝罪文には「不快な思いをさせて申し訳ありませんでした」というテンプレ化した言葉が使われることが珍しくなく、ネット上では「ご不快構文」と呼ばれ、「どこが悪かったのか理解していない」とさらなる批判を招くこともある。

 なぜ「ご不快構文」が火に油を注ぐのか、炎上後の望ましい対応やそもそも炎上を防ぐためにはどうしたらいいのかを、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)の著者でジャーナリストの治部れんげさんに聞いた。

「ご不快構文」が炎上する理由

——なぜ「ご不快構文」は謝罪として不適切なのでしょうか。

治部れんげさん(以下、治部):謝罪とは、本来は自分たちの失敗について振り返るものなので、主語は企業側になりますよね。ところが、「不快な気持ち」は主語が広告や発信を受け取った側となっています。丁寧な言葉を使っていても、文章の構図としては受け手の感性に責任を帰属しているので、消費者の目には「本当は悪いと思っていない」と映ります。

——確かに、商品の欠陥や不具合の謝罪では「不快にさせて」や「誤解を招いて」とは言わないですよね。なぜ広告だと「ご不快」になってしまうのでしょうか。

治部:明確にはわかりませんが、過去の事例を見ていると、目に見える結果を基準にしているのではと感じます。例えば、「製品から火が出る」といった欠陥でしたら、消費者がどう感じるかは関係ありません。けれども、広告炎上に関してはコミュニケーションの領域で、消費者の中でも問題視する人としない人がいる。そうすると、受け手の捉え方の問題として、「自分たちの発信内容や発信方法に問題があったのでは」という視点に至らないのではないでしょうか。

 また広告に関しては、多くの場合は企業が代理店に依頼し制作しています。作られた広告を承認している時点で、その企業に責任は生じるのですが、自分たちで作っていない分、自社の責任という意識が薄れやすいのかもしれません。

——謝罪文の裏に「悪気はなかった」という企業側の気持ちが透けていると感じることもあります。

治部:確かに悪気はなかったんだろうなと感じるケースもあります。しかし傷つけるつもりはなく、知識がないゆえにとってしまった言動であっても、企業の責任が免除されるわけではありません。特に報道機関の場合「知らなかった」は言い訳になりません。例えば今年3月に『スッキリ』(日本テレビ系)で放送されたアイヌ民族への差別発言は、あの表現が差別になると知らなかったとしても、人の尊厳を傷つける差別表現をしてしまったことには変わりありません。

 また最近、「無意識バイアス」(自分自身が気づいていないものの見方や捉え方のゆがみ・偏りのこと)に関する取材を受けることが増えたのですが、マスコミ側にも「無意識だから仕方ない」「悪気がない人を責めたくない」という思いを持っている方がいると感じます。

 一対一のコミュニケーションのなかで、知らずにうっかり傷つける内容を言ってしまうことはあると思います。ですが、当事者が「嫌」と示しているにも関わらず「目くじらを立てる人に理解してもらうにはどうしたらいいですか?」と聞かれることがあるんですよね。本人が「嫌」と意思表示しているならば、それを「気にし過ぎ」という言葉で押さえつけるのはおかしいです。

——単純に「嫌だと感じている他人のために、自分の言動を変えたくない」だけですよね。

治部:はい、その通りだと思います。同じ内容でも上から命令されれば、すんなり聞く人の方が多いですよね。「自分と同等だと思っている人や、自分より下だと思っている人に言われたことがきっかけで自分を変えたくない」というのは、すごく良くないと思います。誰かが声をあげることに対して、抵抗感が強い文化とも関連があると思います。

——本来は上からの命令も意味を理解した方がいいですが、「命令だから」で処理しているように感じます。

治部:上からの命令は聞くものの、横や下からの指摘は無視する動作が染み付いている部分から、見直したほうがいいのかもしれませんね。

炎上の原因は「消費者の期待とのギャップ」

——広告や企業発信が炎上してしまう原因はどこにあるのでしょうか。

治部:「広告としての面白さ」を追求するため、尖った表現をし、消費者がどうメッセージを受け取るかの視点が欠けていたり、「応援したい」と言いつつも、広告の内容は悩みの根本的な問題を矮小化していたり、消費者が抱える悩みそのものへのリサーチが不足していたりというケースが見られます。

 例えば、2020年には、花王の生理用品のプロジェクトで、生理には個人差があり、女性同士で生理を理解し合うことで生理の辛さを解消するという趣旨のメッセージを出したところ、一部の消費者から「生理痛が酷いなら病院に行ったほうがいい」「女性同士での理解を推奨しているのは“女の敵は女”と言っているようなもの」と受け止められて炎上しました。これは、企業側の生理に伴う体調不良や辛さに関する調査が不足していたため起きてしまったと考えています。医療の専門家の助言を受けたら防げたと思うのですが……。

——炎上を防ぐために注意するポイントとは。

治部:消費者の期待と、作られた広告にギャップがないかチェックします。2016年に炎上した資生堂「INTEGRATE」のCMを例に挙げると、メインターゲットが女性の商品なので「化粧品は女性の味方」という期待を消費者は抱いているはずです。それなのにCMでは25歳を過ぎた女性に対して「可愛くない」「チヤホヤされない」など恐怖心を煽るような表現が用いられました。自社の商品やサービスが、どう消費者に期待されているかを考えると、炎上を防げると思います。

 大企業が発するメッセージは、良くも悪くも影響力があると消費者は考えていて、炎上する企業はある程度、企業規模が大きい傾向にあります。また、炎上するかしないかはネット上で拡散されるかが分岐点でもあって、一部で問題視されていたけれども、炎上するほど注目されなかった企業や、紙媒体や有料のネット記事で危ういなと感じるものはあります。一度炎上した企業は、炎上を繰り返さないよう気を付けますが、ネット上で注目を集めないものは、問題点にも気付かず、差別的・侮蔑的な表現を繰り返してしまう恐れがあります。

——最近はSDGsへの注目が高まっていることもあり、社会的なメッセージ性のある広告を見かけることも増えた気がします。

治部:社会問題の解決は決して簡単なことではありません。「自分たちが誰かを傷つけるかもしれない」という意識を持ち、そのテーマに関する本を最低3冊は読み、かつ専門家に監修してもらうなど、きちんと学んでください。単純に、社会的な課題の実態を知らないまま広告を作ってしまったことが、炎上の原因になっていることも少なくありません。ある程度の知識がなければ、自社に応用して考えることは難しいと思います。

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