新しい“韓流四天王”とは──『梨泰院クラス』だけじゃない! 配信で見る最尖端の韓国ドラマ
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“底辺の人”のリアルな描写と兵役の問題が絡む青春劇
佐藤 同じく地味めな作品ではありますが、今年シーズン2の放送が決まっている『賢い医師生活』もイイ。医大の同期である男4人と女1人の友情を中心に、それぞれが属す診療科の診察風景や、空き時間にみんなで取り組むバンド活動などが描かれています。この作品と同じシン・ウォンホ監督、イ・ウジョン脚本の『応答せよ』シリーズ(12~15年)は韓国の80年代や90年代を舞台にしたもので、tvN躍進のステップボードになりました。刑務所の日常を描く『刑務所のルールブック』(原題『賢い監房生活』、17年)も同じ監督と脚本家。いずれもツラい人生を歩んでいる人たちに寄り添いつつ、コメディのテイストも入っています。
小田 私のここ5年間のベスト1は『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』。『ミセン-未生-』(14年)、『シグナル』(16年)を撮ったキム・ウォンソク監督のドラマで、人気歌手IUが母親の借金を背負って困窮した主人公の女の子を演じています。彼女は中年会社員に助けてもらうことにより、人を信じることの大切さ、絆の温かさを感じていくという話で、劇的な展開はそんなにないけど、見ていて心が洗われる。中年会社員のスマホを主人公に盗聴させて陥れようとする会社の社長役を、『愛の不時着』の北朝鮮の盗聴係である“耳野郎”ことキム・ヨンミンが演じているというのも面白い。
佐藤 同じように今を生きる人々の人生をリアルに描くという意味では、『ライブ~君こそが生きる理由~』もおすすめ。見る側が身に詰まされる作品を書いたら右に出る者がいない脚本家ノ・ヒギョンのドラマです。警察官たちの日常を描いているんですけど、就職難から警察官になるという設定からして、よくある事件中心の警察モノとは違う。勤務がキツかったり、それぞれ家庭の事情を抱えていたり、ヒューマン・ドラマとして人間がよく描かれています。
小田 いわゆる“底辺の人”を描くのがうまいですよね。
佐藤 こうしたジャンルに関しては、「韓国は本当に腹が据わっているな」という感じがします。
小田 『青春の記録』もぜひ見てほしいですね。等身大で爽やかな青春ドラマなんですけど、そこに兵役の問題が絡んできて韓国ならではの物語になっています。ちなみに、舞台は梨泰院の隣の漢南洞。最近、この『青春の記録』の主演であるパク・ボゴム、『梨泰院クラス』のパク・ソジュン、『愛の不時着』のヒョンビン、『サイコだけど大丈夫』のキム・スヒョンが「新・韓流四天王」と韓ドラ好きの間で呼ばれています。
佐藤 韓ドラは愛憎劇、復讐劇も多いけど、爽やかな作品も見たくなりますよね。
小田 『それでも僕らは走り続ける』も爽やか。なんてことのない青春ドラマですが、『ミセン-未生-』にも出ていたK-POPグループZE:Aのイム・シワン、俳優グループ5urprise出身のカン・テオ、子役出身の実力派シン・セギョン、少女時代のスヨンが出演する。主人公は国会議員の息子で陸上選手、ヒロインは字幕翻訳家で、貧富の差がある男女2人が出会うんだけど、一昔前の韓ドラのように財閥と庶民の対比は特になく、それぞれがわかり合っていこうとする。すごくドラマチックなわけではないものの、劇的な作品が多い中で見ていてホッとさせられます。
感情がゼリーに見えてゾンビが時代劇に現れる
小田 この『それでも僕らは走り続ける』の脚本家パク・シヒョンと、『恋愛ワードを入力してください~Search WWW~』のクォン・ドウン、『僕が見つけたシンデレラ~Beauty Inside~』のイム・メアリは、新人脚本家。みんな、『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』(16年)、『太陽の末裔』(16年)、『ミスター・サンシャイン』(18年)を書いたヒットメーカーのキム・ウンスクを師匠とし、各作品は3人が一本立ちして書いたものです。それぞれテイストが違うけれど、「名ゼリフを書く」と定評がある師匠譲りの小粋なセリフが特徴的ですね。
佐藤 脚本といえば、先ほども話した完全にNetflixオリジナルの『保健教師アン・ウニョン』は、原作小説の作家チョン・セランが手がけています。人々の感情がゼリーのように見える特殊能力を持つ保健の先生が、青年教師と共に邪悪なものと戦うという、ワケのわからなさが素晴らしい(笑)。監督のイ・ギョンミは『荊棘の秘密』(16年)など個性的な映画を撮ってきた人で、主人公の保健教師を映画版『82年生まれ、キム・ジヨン』(20年)のチョン・ユミ、青年教師をドラマ『スタートアップ: 夢の扉』(20年)のナム・ジュヒョクという人気若手俳優が演じている。かなり独創的な内容で、地上波やケーブル局では企画が通らなさそうだけど、ネトフリだからこそできるのでしょう。また、同じくNetflixオリジナルの『キングダム』はゾンビ時代劇。映画監督のキム・ソンフンが撮っていて、ゾンビがめちゃくちゃグロテスクです。これも攻めた企画で、今年シーズン3が配信予定です。
小田 一方、テレビ朝鮮(朝鮮放送)という「朝鮮日報」系のケーブル向け総合編成チャンネルがあり、これまで時代劇をよく放送してきたのですが、少しずつ現代のドラマにも力を入れているんです。今年1月、そんなテレビ朝鮮での放送とネトフリ同時配信が始まった『結婚作詞 離婚作曲』が注目されています。脚本は、15年に引退宣言した人気脚本家イム・ソンハンが、フィービー(Phoebe)というペンネームで復帰して書いている。
佐藤 日本にはなかなかいないタイプの脚本家が復活というだけでも話題性があるし、期待が大きい。
小田 イム・ソンハンは『ペントハウス』(20年)を書いたキム・スノクと並び、“マクチャンドラマ”の2大女王とされる脚本家なんです。マクチャンドラマとは、あり得ないことが次々に起きるドロドロの展開が魅力の作品。とんでもない悪い女が出てきて主人公を陥れ、最後はその悪い女が逆にやられてスカッとするという、鬱憤晴らしみたいな部分がある。ただ、極悪人や悪女、犯罪は描かない、というのがキム・スノクや普通のマクチャンドラマとは違うイム・ソンハンの大きな特徴。『結婚作詞 離婚作曲』では、夫に浮気されている、一見完璧に見える夫に満足している、30年来連れ添った夫に離婚を宣告されているという、30~50代の3人の妻が出てくる。彼女たちの日常をリアルに描く中で、唐突に思いがけないことが起きるので先が読めません。単なるラブストーリーではないし、サスペンスでもない。韓国で放送されたTV朝鮮では第1話から開局以来の高視聴率を上げ、同局のドラマとして初の2桁台を記録する成功を収めました。6月から放送されるシーズン2への期待も高まっています。
佐藤 『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』もドロドロしていますね。高級住宅街「SKYキャッスル」に住む医師の妻たちのカネや権力への執着、学歴重視の韓国を風刺するようなタッチで受験戦争の裏側を描き、韓国での放送では最高視聴率が20%を突破しました。
映画の制作者たちがドラマへと流入する
佐藤 ここまで話してきたように、『愛の不時着』『梨泰院クラス』以外にも配信で楽しめる最近の面白いドラマはたくさんあるわけですが、今年に入ってネトフリが韓国の2つの撮影スタジオと長期の契約をしたと発表しましたよね。韓国での制作にさらに力を入れていくということなので、今後が楽しみです。
小田 もっとお金をかけた、さまざまなジャンルのドラマが作られるのではないかと期待しています。
佐藤 韓国では、新型コロナウイルスの影響で劇場公開ができなかった映画をネトフリに売って配信に切り替えるといったケースも出てきているので、映画制作に携わっていた人たちがドラマに流れていくかもしれません。現に先日、ある映画監督にインタビューしたら、「これまで映画を作ってきたけど、これからはドラマのシリーズものも撮れるように備えていかないと」と言っていました。韓国は劇場チェーンも大手エンターテインメント企業が占めているので、ドラスティックな動きが日本よりも出やすいんです。
小田 一昔前だと、映画俳優のほうが格上で、ドラマ俳優は格下ととらえられていましたが、この10年ぐらいの間に映画にしか出なかった俳優がドラマにも出るようになり、垣根がなくなっています。その傾向がさらに進むように思いますね。脚本家も、以前は脚本家学校に通ったり、大御所脚本家に弟子入りして修業したりするのが普通だったけれど、放送局の脚本コンテストで出てきたばかりの新人が台頭したり、別の仕事のキャリアを生かして脚本を書いたりといったケースも増えてきた。こうした動きが活発になっている韓ドラは、ますます楽しみですね。
(構成/安楽由紀子)
佐藤結(さとう・ゆう)
映画ライター。大学在学中に韓国・延世大学へ留学。韓国の映画雑誌「シネ21」東京通信員を経て、現在は「キネマ旬報」「韓流ぴあ」「韓国TVドラマガイド」などで執筆。『弁護人』『密偵』ほか劇場用パンフレットにも寄稿。
小田香(おだ・かおり)
ライター・編集者。日韓の俳優、ドラマ・映画関係者に数多く取材。「韓流ぴあ」や韓国ドラマDVDブックレットなどで執筆するほか、台湾映画、華流ドラマについても寄稿。著書にノベライズ本『イニョプの道』(ぴあ)。
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