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「紀州のドン・ファン」殺害事件の容疑者逮捕と警察の説明責任
さて、紀州のドン・ファン殺害事件は、4月28日に、資産家・野崎幸助(享年77)を殺した容疑で、妻だった須藤早貴容疑者(25)が逮捕された。
事件当初から、須藤が事件に関係していたと見られていたが、本人は否定し、確たる物証もなく、迷宮入りかと思われていた。
野崎の本を出し、彼と親しい記者がいる講談社のフライデーが、生前から野崎と交友があり、須藤とも顔見知りであるため、事件当初から、何度も取材を重ねてきた。
和歌山県警の捜査情報もかなり詳しく報じてきたため、今回の逮捕にあたって、フライデーがどのように報じるか、興味があった。
先週、新潮がいち早く報じていたので、内容を紹介しながら、
「だが読み進めていくと、大丈夫なのかという疑念が湧いてくる。決め手は和歌山県警が彼女から押収した2台のスマホにあったGPS機能だというのだ。
『GPS機能を解析すれば、測定誤差数メートルの範囲内でスマホの場所、さらには時間帯も絞り込める。その結果、野崎氏に一服盛れたのは、S(須藤=筆者注)以外にあり得ないことが判明したという。いわば、「消去法」での犯人洗い出しだった』(新潮)
おいおい、そんなこと事件当初からわかっていたことではないのか? 今頃GPSを分析したなんて話を、誰が信じるのか。
このやり方は、和歌山県警が手がけた、1998年に起きた『和歌山毒物カレー事件』と同じだというのだ。決め手は、住民らの証言に基づき、1分刻みでタイムテーブルを作成し、林眞須美死刑囚以外に鍋にヒ素を混入する機会を持つ者はいなかったとの結論を導いたというのである。
おいおい、林死刑囚は一貫して無罪を主張しているではないか。冤罪ではないかという声だってある。3年近く捜査してきて決め手はないということか。
このタイミングで逮捕したのは、須藤容疑者が顔の整形手術を受けたらしく、だいぶ印象が変わってしまったことと、新潮によれば、彼女は以前、中国やドバイでモデルの仕事をしていたため、『万一ドバイへの渡航を許せば、事件のお宮入は確実。一部のメディアにSさんの“海外移住計画”をリークし、その阻止に動きつつ、逮捕を急いだのです』(捜査関係者)
急いだ理由はわかるが、物証も自供も得られずに起訴したとして、公判維持できるのだろうか。悪名高い『人質司法』をやれば、自白をすると高をくくっているのではないか」
と書いた。
やはりフライデーも「裁判で有罪に持ち込めるかは読めません」(全国紙社会部和歌山担当記者)というスタンスのようである。
フライデーは、須藤とかなり接触していたから、事件後、野崎の遺体が自宅に戻ってきたとき、棺の横で自らサイコロステーキを焼いて食べていたのを見て、「早貴容疑者が犯人だとすれば、相当な“鋼のメンタル”の持ち主」だと思ったという。
5つの疑問点を出している。
まず1点は、犯行の動機である。
犯人が須藤ならば、動機が遺産目当てであることは間違いないが、フライデーによると、野崎は高齢で、脳梗塞で2回倒れているから、わざわざ殺害する必要があったのか?
事件当初、フライデーに須藤は、「月100万円がもらえなくなるのに、殺すわけないでしょう?」と話していたという。
なるほどと思わないでもないが、フライデーによれば、結婚してすぐに、ミス・ワールドという名の愛人にはまり、「早く早貴と別れてミス・ワールドと結婚したい」とこぼし、実際、亡くなる少し前に、早貴に離婚届を突き付けたこともあったという。
だが、彼女はそれを野崎の前でビリビリに破いたそうである。
覚せい剤の入手ルートは?
彼女が野崎の住む田辺市に来るとすぐ、自動車教習所に通い始めた。免許を取得してすぐにクルマを運転して度々外出していたという。
そのとき、密売者とコンタクトをとったのではないかというのである。
この見方は、他の週刊誌でも書いているが、そうだとしたら、先にも書いたように、今頃になって携帯のGPSから動きが割れたというのは、納得がいかないが。
どうやって覚せい剤を飲ませたのか?
野崎は既に勃たなくなっていたと、須藤はフライデーに語っていた。だとすれば、セックス中に口から飲ませることはできない。
夕食時、ビールを2人で飲んだといっている。その後、野崎は上に上がって亡くなっている。
家政婦はフライデーに対して、ふだんはビール瓶など片づけない須藤が、その日に限って、テーブルの上が片づけられていたと話していた。
ビールを飲んだ時間から死亡推定時刻までがピタリと合うそうだ。
なぜ取材に応じたのか?
フライデーの取材に応じれば、つじつまの合わないことが出てくるかもしれないが、彼女は「潔白を証明するため」といって、何度も取材に応じている。
その理由を記者は、散らかし放題で掃除はしない、ときにはパンティを床に放置していたこともあるようなずぼらな性格だからではないかと推測する。
遺産の行方?
遺産総額は30億円ともいわれ、妻である須藤には10億円以上の遺産が入る予定だったという。
もちろん、有罪になれば、それもパーになるのだが。
フライデーの読みはまだまだ甘いと思う。ここに上げた疑問は、事件当初からいわれてきたことである。和歌山県警の地を這うような捜査には頭が下がるが、なぜ3年もの長い時間がかかったのか、これでは納得しろというほうが無理というものではないか。
そこで浮上するのが、男の存在である。
現代は、野崎が田辺市で「アプリコ」という酒類販売と貸金業の経営をしていたが、そこの従業員Xというのが、彼女と何らかの関係があるのではないかと見ているようだ。
筋の悪い仲間がいるという噂もあり、須藤とも親しかったという。
野崎が亡くなる3週間ほど前に、須藤が出ていたアダルトビデオを従業員らに見せていたといわれ、須藤にも見せ、「かなり動揺していたと思います」(元中堅社員)という情報もある。
野崎が亡くなった後、「アプリコ」の金庫から2億円が消えていたという話も、事件当初からあった。
県警関係者は、「Xにしか知り得ない事実がある可能性は否定しきれない」といっている。
それにしても、これらの情報は事件後から流れていたものだし、県警も知っていたはずである。
そのほとんどが、事件とかかわりはないと、消されたのであろう。
須藤容疑者には失礼な話だが、ミステリー好きにとっては甚だ興味深い事件である。
小説では、100%動機がある容疑者が犯人であることはまずない。冤罪とはいわないが、警察は会見を開いて、さまざまな疑問に答える必要があるはずだが。(文中敬称略)
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