『ペーパー・ハウス』や『ダーク』だけじゃない!──台湾ドラマにノリウッド映画までNetflixの非英語圏の名作
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ミニシアターなどでしか見ることのできない作品
近年のオリジナル作品では、アリアナ・グランデやレディー・ガガ、ビヨンセなどのライブドキュメンタリーの人気も高い。昨年12月に配信された『エミシーダ:アマレーロ – 過ぎゆく時の中で』もそのひとつだ。
本作はブラジルの人気ヒップホップアーティスト・エミシーダのアルバム『AmarElo』を引っさげてのライブを追いかけたドキュメンタリーだ。ライター・編集者の今野芙実氏は、本作について次のように語る。
「この作品ではライブ映像を通して、過去・現在・未来という、広いスコープでアフロブラジル文化史が語られます。ブラジルというと貧富の差が激しくて、混沌としたファベーラのようなイメージが先行しがちですが、本作はハードな一面だけではないブラジルの多層性に触れられる作品ですね。ドキュメンタリーの面白さと、音楽映画の面白さがあり、アニメーションを交えた語り口も楽しめます。怒りのエネルギーだけではなく、慈愛と先人たちへの敬意に満ちた形で歴史を紡ぎ、その語りの中からブラジルの現在を浮かび上がらせている。人種をはじめ、さまざまな社会的なイシューを扱い、最後の落としどころも2020年ならではです。このタイミングでオススメしたい一本です」
前出の今氏と同様、今野氏もトルコ映画には注目をしているようで、山間のクルド人集落を舞台にした映画『酸っぱいリンゴの木の下で』を挙げる。
「同国の厳格な家父長制など、つらい描写も多い作品ですが、主人公の女の子たちが妙に朗らかなんですよね。単に伝統的な価値観に置かれた、かわいそうな女性ではなく、広大な自然と豊かな土地の中での楽しい日常や純愛、新しい時代の空気をつかもうとする姿が、ユーモアとペーソスを交えて描かれています。立派なリンゴの果樹園と主役の3人の美しい娘を持つ強権的な父親も、古い時代の男性の典型ではあるのですが、決して単純な悪役ではありません。現代の語り部が70年代から90年代と、時代の移り変わりを振り返る構造で、どんな時代や環境の中でも、しぶとく生きていく人たちの人生を肯定してくれるような映画です」
ここまで見てきたように、Netflixにある名作と呼ばれる作品には、社会問題や伝統とのしがらみを扱ったものが多い。しかし、「ただただ楽しいだけの作品も見たい」ということもあるだろう。ということで、最後に今野氏は、スペインの人気監督のひとり、オリオル・パウロ監督の『嵐の中で』を紹介してくれた。
「日本でも『インビジブル・ゲスト』や『ロスト・ボディ』が公開されたパウロ監督は“スペインの2時間ミステリー職人”みたいな人です。全体的に大仰というか、割と通俗的な監督なんですけど、それ故の面白さを存分に堪能できる作品を連発しています。『そんな、無茶な……』みたいな要素も盛り込みつつ、しっかり盛り上げてくれるサスペンス作りに好感が持てます。パウロ監督は、ちょうどいい塩梅のサスペンスのテイストを感じられるような内容が多いんです。シンディ・ローパーの『タイム・アフター・タイム』をモチーフにした変則タイムトラベルものの本作も、“御近所さんSF”のようなテイストとやや強引な盛り上げ術の掛け合わせが楽しい一作。グイグイ持っていってくれる展開と、パワフルな語り口のパウロ監督ですが、意外と生真面目に伏線回収してくれる安心感もある。本作も『どう落とすのか?』と思いながら見ていましたが、ちゃんと落としてくれました(笑)」
このように、あらゆる地域、さまざまな言語の映画やドラマ、ドキュメンタリーがNetflixだと視聴することができる。現在、鹿児島県在住の今野氏は最後にNetflixの恩恵を、次のように語る。
「ミニシアターが少ない地方在住でも、世界各国の映画や、公開規模が小さい映画を見られるようになったのはNetflixの良い点ですよね。非英語圏の作品は一部の国などを除けば、岩波ホールなど特定の劇場の特集上映や映画祭でかかるくらいで、これまで国内で見られる機会は、多くありませんでしたから。人はどうしても、限られた情報やなんとなくのイメージに基づいた偏見を抱きやすいものだと思います。でも、ひとつの国の中でも性別や人種、世代によって立場が違うこと、立場によって見えている景色が違うことを、多彩なNetflix作品を通じて知るだけでも少し変わってくるはず。意外な共通点や相違点も含め、作品を通して全く知らない国やカルチャーに触れることは先入観から解き放たれる第一歩になりますし、自分自身の思考もより自由になれるような気がします」
いろんな国のハイクオリティな作品が並ぶNetflix。一度、なじみのない国の作品を見てみるのは、いかがだろう。
(文/伊藤綾)
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