出し惜しみしないのが稼ぐコツ!?『鬼滅』ブームの裏に20社配信あり──アニメが配信されまくる理由
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Netflixオリジナル=一社出資とは限らない
前述の通り、NetflixとAmazonプライムビデオによってアニメの多チャンネル配信は一般化したが、VODサービス、中でもNetflixはアニメ業界に別の角度からもインパクトを与えている。
18年1月、Netflixはオリジナルアニメ『DEVILMAN crybaby』(全10話)の配信をスタート。テレビ放送や劇場公開のない、SVODプラットフォームによる独占配信を前提としたオリジナルアニメがビジネスとして成り立つ、ということが日本のアニメ業界からは驚きを持って迎えられた。
Netflixはその後も『B:The Beginning』『A.I.C.O. Incarnation』といったオリジナルアニメを独占配信で展開していくが、特に注目されたのはその製作費だ。日本のテレビアニメ1話の製作費は一般的に2000万円前後、深夜アニメ1クールで約2億円程度といわれている。
これまでのビジネスモデルでは製作委員会が持ち寄っていた製作費をNetflix1社でまかない、さらには一般的なアニメの何倍もの予算を提示しているらしい、と話題になった。この“黒船”が日本のアニメビジネスの構造を変化させ、ひいては薄給や過重労働が叫ばれるアニメ制作現場の労働環境も改善するのでは? といった期待の声も上がった。
「確かにNetflix1社出資の場合、同社は製作費の全額程度は支払っていると思います。しかし、一口に“Netflixオリジナルアニメ”といっても、実は1社出資でなく、製作委員会が組織された上で配信権を独占的に購入しているパターンも含まれているのです。どの作品が1社出資か独占配信かという区分について、Netflix側は公表していません。
また、Netflixオリジナルとなると制作費がすぐにリクープできる一方、企画として選ばれる作品は全世界的に人気のあるSFジャンルなどに偏る傾向があります。そのため、アジア圏で人気が高く、キャラクタービジネスも重視されるアイドルアニメなどは、複数のプラットフォームで配信をしたほうが将来的なビジネスにつながるはずです」(前出・数土氏)
アニメ業界関係者・B氏も「Netflix独占配信は、良い作品を作ってグッズなど関連ビジネスも含めて盛り上がりが醸成されてスタジオの名が売れて……という従来のやり方とはかけ離れているので、あまり乗り気でない制作会社もいる」と釘を刺す。
ともあれNetflixは、18年にプロダクションI・Gやボンズといった国内の有力アニメスタジオと包括的業務提携契約を結び、20年にはCLAMPやヤマザキマリ、冲方丁らクリエイター6組とパートナーシップを締結するなど、現在もオリジナルアニメ製作に意欲を見せている。
なお、並べて語られることの多いAmazonプライムビデオは、オリジナルアニメを日本のアニメスタジオが制作した事例はあるものの、Netflixほどの大胆な動きは見せていない。独占配信も、劇場版アニメのスピンオフとしてオリジナル作品が多少見られる程度にとどまっている。どちらかといえば『ドキュメンタル』など、バラエティ方面に注力しているといえるだろう。
映像ソフトメーカーは総合化しなければ先が暗い
ここまで見てきたように、アニメビジネスにおいてネット配信が存在感を増していく中で、映像ソフトメーカーの先行きは明るくないようにも思える。前述の通りパッケージ市場は縮小を続けており、ここからの劇的な回復は見込めないだろう。配信権を握ったとて、その衰退の穴埋めをできるほど配信市場はまだ大きくない。
さらに、Netflixとアニメの制作者が直接つながれば、これまで配信権の交渉窓口を務めていた映像ソフトメーカーを飛び越して、プラットフォーム側がそのまま配信権を独占的に有することとなる。アニメ業界に対するNetflixの動きは配信プラットフォームの中でも特殊だといわれているが、それでもその動向は決して無視できるものではないだろう。
「映像ソフトメーカーは今後、生き残る企業と生き残れない企業に分かれていくはずです。現在のアニメビジネスは作品の映像そのものだけでなく音楽やゲーム、ライブイベントにコラボ展開と多様化しています。関連事業が拡大するに伴い、製作委員会における映像ソフトメーカーの出資比率も低下傾向にあります」(前出・数土氏)
確かに、関連商品売上は5000億~6000億円程度で安定して推移しており、ライブ関連売上も右肩上がりだ。2019年時点では844億円と、配信売上を大きく上回っている。
こうした状況を踏まえて、数土氏は製作委員会の二極化を指摘する。映像ソフトメーカーの出資比率が減った分をアニメ関連の専門学校や小規模なグッズ会社、イベント会社などの新興企業が埋め合わせ、10社を超える企業によって製作委員会が構成される作品がある一方、『鬼滅の刃』でアニプレックスが原作を持つ集英社と制作会社ufotableの3社だけで座組を組んでいるように、最小限の企業で企画・製作を行うケースも増えてきているという。
「この流れにおいて、まさにアニプレックスは生き残る企業の筆頭といえます。同社は映像ソフトメーカーの枠を超え、配信権や海外販売、イベントや音楽も展開するなどビジネス領域と収益の多角化を果たし、“アニメ”というプロジェクト全体をマネジメントする会社となりました。また、18年に音楽会社のランティスを吸収合併してできたバンダイナムコアーツ(旧バンダイビジュアル)も、音楽やステージ分野での自社展開を拡大していくでしょう。今後、こうしたアニメビジネスの総合化に対応できない映像ソフトメーカーは、その進退を決断する時がやってくるはずです」(同)
はたして配信売上はパッケージ売上の下落をカバーするほどに成長し、製作会社各社は新たな活路を見いだしていくことができるのか。いずれにせよこれからのアニメビジネスは、『鬼滅の刃』よろしく産業の“柱”となったSVODサービスが鍵を握っていることは確かだ。
(文/中込めめ)
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