出し惜しみしないのが稼ぐコツ!?『鬼滅』ブームの裏に20社配信あり──アニメが配信されまくる理由
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きっかけは06年の『涼宮ハルヒの憂鬱』か
テレビアニメは1960年代の黎明期に玩具産業を中心にして勃興し、80年代以降はVHSやDVDといったビデオグラムを主な収益源として発展した。並行して、95年放送のテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』をきっかけに、テレビアニメビジネスでも複数の出資社が資金を出し合い、出資比率に応じた収益やソフト販売権、グッズ化権といった権利を分配する製作委員会方式が広く採用されるようになり、今でもメインストリームを占めている。
「製作委員会の中で出資比率が大きい主幹事会社を務めるのは、映像ソフトメーカーになる場合が多い。作品の収益の柱となるパッケージ化権を保持するのも、主にはソフトメーカーになっている」とはアニメ業界関係者A氏の言だ。
2002年にはバンダイナムコグループによるアニメVODサービス「バンダイチャンネル」も登場するが、当時まだアニメ業界は“円盤ビジネス”の真っただ中。ネットでアニメを見る習慣はまだまだ一般的ではなかった。
日本において、テレビアニメのネット配信が一般化するきっかけとなった作品として、「06年放送のテレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』の存在はあると考えられます」と説くのは、『誰がこれからのアニメをつくるのか?』(星海社新書)の著者であるジャーナリスト・数土直志氏だ。
『涼宮ハルヒの憂鬱』は、時同じくして登場したYouTube(05年)やニコニコ動画(06年)を通じてファンによるダンス動画などが拡散し、大ブームに。同時にアニメ本編の違法配信も急増することとなった。
「合法性はさておき、ここでアニメファンは、ネットでアニメが手軽に見られることに気づきました。一方、違法配信が蔓延する状況に危機感を抱いたアニメ業界は、急速に配信環境を整備していきます。ただし、この時期のネット配信にビジネスとしての期待は小さく、07~10年頃まで関係者の口からは『配信は全然金にならない』といった声もよく聞かれました。当時は、違法配信に対する牽制といった意味も強かったのです」(数土氏)
奇しくも『ハルヒ』ブーム前夜であった05年、アニメビデオパッケージ売上は1388億円とピークに達し、ここから下降線をたどる(一般社団法人日本動画協会「アニメ産業レポート」より)。ネットで動画を見るのが当たり前の時代が到来した。
12年にはNTTドコモとKADOKAWA共同出資のアニメ専門定額制動画配信(SVOD)サービス・dアニメストアが開始。10年代前半は、テレビ放送と並行してdアニメとニコニコ動画で配信を行うアニメ作品が目につくようになる。さらにU-NEXTやTSUTAYA TVといった日本の動画配信プラットフォームもSVODに舵を切り始めた。
そして15年9月、NetflixとAmazonプライムビデオが日本でサービスイン。ここでアニメをめぐるネット配信の潮目は再び変化を迎える。
「2社はいずれも、日本国内ではかなりサプライズ的なローンチという印象でした。そこから1~2年かけて各社とさまざまな企画を調整していったのだと推測できます」(前出・数土氏)
かくして17年頃には、アニメの複数プラットフォームでの同時配信は当たり前の光景となった。そして、アニメビジネスを支えていたパッケージ販売に取って代わるように配信収入は右肩上がりで成長。18年の売り上げは595億円と、同年のパッケージ売上(587億円)を追い抜くまでになった。
安ければ1話10万円で配信契約を結ぶ場合も
アニメビジネスの屋台骨として熱い視線を集める配信収益だが、そのカラクリはあまり知られていない。前出のA氏は、次のように耳打ちする。
「アニメにおける配信権は、それまで収益の要だったパッケージ権と並んで今や稼ぎ頭。製作委員会の中でも企画した会社、その多くは出資比率の高い主幹事会社が配信権を握っていることがほとんどです。この配信権を各プラットフォームに販売して手数料を得ることで、配信権を持つ会社は収益を得ています。
2~3年前までは視聴された回数に応じてプラットフォームの支払う金額が変動する従量制もありましたが、今は基本的に1話につき数十万~数百万円で一定期間、といった配信契約になっています。配信権の相場はピンキリですが、安ければ1話10万円で数カ月契約といったこともざらにあります。それでも複数のプラットフォームが配信権を購入すれば、チリも積もって制作費をリクープすることが可能になる。
配信の契約期間はまちまちで、それによって当然金額も変わってくる。プラットフォームごとにその金額には差があり、NetflixやAmazonプライムビデオといった会員数の多い有力サービスは視聴される回数も多いため、その他のサービスと比べて何倍もの金額で配信権を購入しています」
映像ソフトメーカーが主幹事を務めているケースも多い。近年では『鬼滅の刃』を手がけたソニー傘下のアニプレックスをはじめ、バンダイナムコアーツ、エイベックス・ピクチャーズ、ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント、NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン、ポニーキャニオンといった企業には軒並み配信担当部署が設立され、担当者がプラットフォーム側との金額交渉を行っているそうだ。
さらに、アニプレックスを擁するソニーは、20年12月にアメリカの最大手アニメVODサービス・クランチロールを11・75億ドル(約1222億円)で買収。この背景には、有力な配信プラットフォームを自社グループで保有することで、他プラットフォームとの交渉を有利に進める目的があるとも目されている。つまり、例えばNetflixが会員数を盾に配信権の購入額を買い叩いてきた際に、「それなら売らずに自社でのみ配信する」というカードを切れるのだ。
ただし、必ずしも映像ソフトメーカーだけが配信権を持つとは限らない。近年ではドコモ・アニメストアといった配信会社が製作委員会に名を連ねる作品もあり、その場合は当然、その会社が配信権を持つことになる。
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