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「トイレ崩壊寸前」って大げさすぎでしょ? 怪しげで不快な「ネット広告」はなぜ蔓延するのか

「美容健康系」を出さなければ変な広告が減る

――先ほど「運用型広告」という言葉が出ましたが、一般読者が理解できるように説明してもらえますか。

C氏 インターネット広告のしくみは本当に複雑になっていて、そんなの無理(苦笑)。メディアの視点でざっくり説明すると、インターネット広告の種別は「検索連動型」や「ディスプレイ広告」「動画広告」などに分けられます。

 広告費が一番大きいのが検索連動型で、検索エンジンの検索結果の上位に、検索ワードに関連したテキストが出てくるものです。次に金額が大きいのが、ウェブサイトの広告枠に表示される、画像を中心としたディスプレイ広告です。

 ディスプレイ広告にも2つあって、ひとつは「予約型広告」。表示期間や回数、クリエイティブなどをあらかじめ決めて、視認性の高い場所に表示する昔からあるものです。もうひとつが「運用型広告」で、読者の反応に応じて広告素材や入札額などをリアルタイムに変更しながら、広告パフォーマンスを最大化するしくみです。

――昔は広告代理店と1件ずつバナー広告を契約していました。いまは枠だけ契約しておけば、広告が自動的に配信されて、PV(ページビュー)やクリック数に応じて広告収入が入ってくるから楽になりました。

C氏 広告主も、広告会社のプラットフォームを使って、複数媒体の広告枠をリアルタイムに入札できるので、このターゲットに、この予算の範囲内で、こういうクリエイティブで、この期間露出して、このリンク先に飛ばす、といった細かな設定ができます。少額からできるので、純広告しかなかった時代には広告が出せなかった小さな会社でも出せるようになったんです。

 その代わり、メディアでは広告の内容をコントロールできなくなってしまった。とはいえ、カテゴリー単位では非表示を選べます。はっきり言うと「美容健康系を出さない」と決めれば、変な広告がだいぶ減るんです。

 同じ運用型広告会社を使っていても、大手新聞社のサイトに怪しげな広告が出ていないのは、そういう理由です。

――でも美容健康系は、やっぱり儲かりますよね。

C氏 実は表示される広告があまりにひどいので、いちどカテゴリーごと切ったことがありました。そうしたらPVあたりの売上がガッツリ下がっちゃって、泣きたくなりました。結局、元に戻しましたけど。

 消費者庁が「健康食品の宣伝や広告の中には、誇大表示や契約条件が不明瞭なものがあり、注意が必要」と名指ししているくらい、この分野は以前から怪しい会社が多いです。特に劇的な効果をうたう会社には、コンプライアンス上の問題があるといっていい。

 もちろん美容健康系の中にも、まじめにやってる会社もあるんです。でも、さっき言ったように、怪しい会社が高単価で入れてくればそちらが優先して出るし、カテゴリーごと切ればまじめな会社も表示されなくなってしまいます。

ネット広告の質は「見ている人の鏡」でもある

――運用型広告の中でも、最近広告内容が特にひどいと言われているのが「コンテンツ・ディスカバリー」といわれる種類のものです。

C氏 記事内容と親和性が高く、スタイルも記事に似せた「ネイティブ広告」を記事下に出すことで、読者のコンテンツ体験を妨げない手法と言われていますが、実際の運用はそうなっているといえるかどうか。

――美容健康系広告のもうひとつの問題として、PVを大量に集め、そのような広告をクリックする判断力の弱い人を集めようとすると、テレビネタ、芸能ネタを増やすのが早道になります。このしくみは、質の高いコンテンツを増やすインセンティブにはなりません。

C氏 私は読者の興味関心がある限り、芸能ネタが必ずしも悪いとは思いません。それにうちの場合は、芸能ネタの読者の広告クリック率が高いというデータまでは出ていません。

 とはいえ、もしもおっしゃる通りに、政治経済など知的レベルの高い人向けの記事ではそういう広告が踏まれる割合が低くなるとすれば、売上を増やすためにはそういう記事の割合を減らせということになりますよね。うちの場合、営業はコンテンツの中身には干渉しないようにしてますけど。

 あと、広告主をかばうわけでは決してないんですが、広告のクリエイティブやネイティブ記事の内容は、膨大な数のA/Bテスト(比較)が行われていて、その結果が表示されているともいえるんですよ。

――あの醜い広告は、読者自身が選んでいると?

C氏 私やうじいえさんはターゲットじゃないけど、ああいう広告を踏んでしまう人が一定数いるから表示されているわけで。ネット広告というのは「見ている人の鏡」でもあるんです。あの広告に釣られる人がいる限り、ああいう広告はなくならないでしょうね。

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