『神カル』夏川草介氏が医療の最前線から掲げる、新型コロナに打ち勝つ“唯一の道”
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「新型コロナウィルスを前代未聞の脅威たらしめている理由のひとつは、その『秘匿性』にあります」
『神様のカルテ』など医療小説のベストセラー作家であり、コロナ感染症指定病院に勤務する現役内科医・夏川草介氏は、コロナ禍の最前線で戦う医師たちの姿を描いたドキュメント小説『臨床の砦』(ともに小学館)の執筆背景についてそう切り出す。
新型コロナウィルスは、死亡率が高くないとされる一方で感染力が強く、治療の手段はまだまだ確立されていない。特定の条件が揃った患者が「朝元気なのに、夜には呼吸困難で倒れる」(夏川氏)ことが決して珍しくない未知の病気だ。
「正体不明で理解が進んでいないという理由から、罹患した患者や医療従事者、そしてその家族がバッシングやいじめを受けることがあります。感染拡大初期には、病院にコロナ入院患者がいるとほかの患者が寄りつかなくなるということもありました。病院も経営が大事。嘘をつくことはありませんが、開示義務がないものをわざわざ表沙汰にすることもありません。正直に話してしまえば外来患者が来なくなり、経営が傾くことがわかっているからです。そのような社会状況のなかで秘匿性が生まれ、新型コロナウィルスの脅威はさらに増幅してきました」(夏川氏)
この秘匿性が、医療現場において「どの病院にどれくらいの患者が入院しているか」、もしくは「患者の死亡理由や基礎疾患の有無の把握」など、医療現場間の情報伝達や連携をも困難にする。そしてその結果、リスクを抱えた患者を事前に察知することができず、被害が拡大するという悪循環を生んできた。
「新型コロナに関する情報を集約するシステムは少しずつ整ってきていますが、未だに不完全です。ある病院が病床数を確保していると公言していても実際には誰も入院していなかったり、逆に入院患者がいないとされていた病院で感染が拡大するというようなことが起きています。また、患者を受けいれている病院が孤軍奮闘を強いられる一方で、まったくコロナ診療に携わらないおだやかな病院もある。秘匿性が病院同士の格差を広めています。これは従来の病気では考えられなかった状況です」(夏川氏)
秘匿性に蝕まれた医療現場の現実を伝えたい――。その他にも、夏川氏が筆を取った大切な理由がある。小説というメディアを通じて、コロナ禍を克服するための“希望”を提示するためだ。マスメディアのように、脅威や対立を煽ることは事態を悪化させだけであり、互いの理解にもとづいた連帯と忍耐だけが、コロナ克服の力になると夏川氏は信じている。
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