『着飾る恋』はモラルのある恋愛ドラマか? “無茶な胸キュン演出”はウケない時代に
ラブストーリーといえば、「壁ドン」や「不意打ちキス」などの、強引かつ一方的な王道シチュエーションを盛り込みがちだ。TBSの火曜ドラマも例外ではなかったが、男女関係は合意がなければNGという意識が定着しつつある昨今。4月にスタートした川口春奈主演の火曜ドラマ『着飾る恋には理由があって』(TBS系)は、時代に沿わない強引なコミュニケーションの描写に配慮しているのかもしれない。
4月20日に放送された第1話では、川口春奈演じる真柴くるみが、自由を愛するミニマリストの藤野駿(横浜流星)との出会いが描かれた。ラブストーリーをうたう連続ドラマらしく、初回に「これでもか」というほど“胸キュン”が詰め込まれていた『着飾る恋』。しかし、火曜ドラマにありがちな無遠慮な描写が見当たらないのが新鮮だった。
例えば、真柴と駿がはじめて会うバスのシーンだ。下車しようと席を立っていた真柴がブレーキの衝撃にふらつき、席に座っていた駿の膝に不可抗力で尻餅をついてしまう。また、タクシーがなく困っていた真柴を居合わせた駿が車で送ってあげるシーンでは<勢いをつけないと閉まらないんです>と駿が運転席から助手席側の扉を閉めるかたちで、助手席に座る真柴と接近する。ほかにも、真柴は取締役社長の衣装コーディネート担当という設定で、向井理演じる葉山のネクタイを結ぶという“役得”シーンも。これでもかと典型的なシチュエーションを盛り込んでいるにも関わらず、現実のモラルと照らし合わせてもNGとされるシーンはない。
昨年の『この恋あたためますか』(TBS系)では、仲野太賀演じる新谷の「不意打ちキス」の賛否が話題になるなど、現代のモラルにかならずしも沿っているとは言えなかった火曜ドラマ。その点、『着飾る恋』は倫理的に配慮したつくりでありながら、多少のスリルやドキドキ感を味わいたいという視聴者の正直な気持ちにも応え、見事にラブストーリーの典型をなぞっている。ドラマの演出を担当している塚原あゆ子は、昨年の金曜ドラマ『MIU404』(TBS系)で女子高校生が拉致されるシーンを撮る際に「絶対におかずにされないように撮る」と話していたそう。そうした男女のセンシティブな関係性に配慮する観点は、おおげさな事件が起こるわけではない『着飾る恋』というラブストーリーにも生かされているのかもしれない。
また『着飾る恋』は、登場人物の職業がインフルエンサーやオンラインカウンセラーなど今どきであったり、SNSで“着飾る”真柴とミニマリストの駿という生き方にも多様性を持たせていたりと「今」を映し出したドラマである。必然的に、恋愛観もアップデートされていなくては違和感があるという要因もありそうだ。
きれいなストーリーを装っていても、モラル的に無理な脚本や演出は、突飛な設定以上にウケない時代になっているのかもしれない。倫理的な配慮がされた気持ちよく見られる恋愛ドラマでありながら、堅苦しくなく、最後まで視聴者に“胸キュン”を届けることができるのか。注目していきたい。
■番組情報
火曜ドラマ『着飾る恋には理由があって』
TBS系 毎週火曜日22時~
出演:川口春奈、横浜流星、丸山隆平(関ジャニ∞)、中村アン、山下美月(乃木坂46)、高橋文哉、向井理、夏川結衣、飯尾和樹(ずん)、赤ペン瀧川、木本夕貴ほか
脚本:金子ありさ
演出:塚原あゆ子、棚澤孝義、府川亮介
プロデューサー:新井順子
音楽:神山羊、兼松衆、田渕夏海
製作:TBSスパークル、TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/kikazarukoi_tbs/
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