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日刊サイゾー トップ  > 山田洋次監督『幸福の黄色いハンカチ』奇跡のキャスティング
宮下かな子と観るキネマのスタアたち第10話

武田鉄矢の役者デビュー作! 高倉健、桃井かおりがピシャリとハマった奇跡のキャスティング山田洋次監督『幸福の黄色いハンカチ』

映画のポスターで結末がわかっちゃう!?

 そしてこの作品、「異色だなぁ」と思うのが、視聴者に完全にネタバレをしているところ。物語終盤、勇作は出所してすぐ、妻に〝もしまだ一人暮らしで、お前が俺を待っててくれているんだったら、家の前竿に黄色いハンカチをぶら下げていてほしい〟とハガキを送ったことを2人に明かします。それを聞いた欽也と朱美は、3人で夕張へ向かうことを決意し車を走らせるのですが、果たして黄色いハンカチがぶら下がっているのか否か、その答えはもう映画のポスターで描かれているんですよね。

 ポスターの、あの沢山の黄色いハンカチがはためく風景を思い浮かべながら観る人のほうが、多いのではないかと思います。物語の結末が分かる場面が、思いっきりポスターになっていることって、あまりないですよね? よくよく考えてみるとタイトルに「幸福の」と入っているし、ハッピーエンドであることは予想がつきます。

 その黄色いハンカチを見つける感動の場面もですが、まず初めに見つけるのが欽也、その後朱美が見つけ勇作に声をかけると、空にはためく沢山の黄色いハンカチが遠くに映し出され、視聴者が見た後ようやく勇作が見つける構成になっているんですよ! 誰よりも後に当事者が見つけるという見せ方、視聴者は先に分かっているのに! それなのに心揺さぶられるのです! 勇作が車から降り立ってハンカチを見た後、カメラが荒いズームで黄色いハンカチにググッと寄るカットも、ハンカチを見つけた勇作の心情を物語っているようで、私の好きなカット。ハンカチを見つめながら少しだけ眉を寄せ、顔をしかめるような表情は、勇作の不器用さが感じられて、何度見ても胸が熱くなります。

 このように敢えて〝見せる演出〟をしている山田監督ですが、一方終盤の感動の場面で、〝見せすぎない演出〟をしているのも粋な見どころ。

 例えば、勇作が妻と再会を果たす場面。遠くで車内からこっそりと見守る、勇作を送り出した欽也と朱美の引きの視点で、再会の2人が映されています。寄りで表情を撮るのではないんですよね。再会した2人も、きつく抱きしめあったりするのではなく、涙している妻の肩をそっと支え、2人で家の中へ入っていく……なんと美しい切り取り方なのでしょう! この奥ゆかしさこそ、日本人の心を揺さぶる、日本の美徳なのではないかと私は思います。きっとこれが、何度観ても感動がある、結末を知っていても楽しめる魅力。

 見せるところと見せすぎないところ。そのメリハリから、山田監督のユーモアさと気品が感じられるのです。

 『男はつらいよ』シリーズをはじめ、数々の作品を今も世に送り出している山田洋次監督。愛される作品を生み出しているのには、長年映画を撮り続けている山田監督ならではの視点と、日本の心がありました。

 今回初めて『幸福の黄色いハンカチ』を鑑賞しましたが、まだまだ語り足りないくらい、魅力が沢山詰まった作品です。人のあたたかさとエネルギーが感じられる街並みの切り取り方。思わず口ずさみたくなる陽気な音楽。広大な北海道を舞台に、その中で役者たちの個性が輝きを増し、それぞれが物語を生きています。これが、何度観ても楽しめる不朽の名作なのだと確信しました。

 かなり物語の終盤部分を語ってしまいましたが、ネタバレしていても夢中で楽しめる作品なので、ご安心を。皆さまも是非、ご覧ください。

宮下かな子(俳優)

1995年7月14日、福島県生まれ。舞台『転校生』オーディションで抜擢され、その後も映画『ブレイブ -群青戦記-』(東宝)やドラマ『最愛』(TBS)、日本民放連盟賞ドラマ『チャンネルはそのまま!』(HTB)などに出演。現在「SOMPOケア」、「ソニー銀行」、「雪印メグミルク プルーンFe」、「コーエーテクモゲームス 三國志 覇道 」のCMに出演中。趣味は読書、イラストを描くこと。Twitter〈@miyashitakanako〉Instagram〈miya_kanako〉

Twitter:@miyashitakanako

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【アミューズWEBサイト公式プロフィール】

みやしたかなこ

最終更新:2023/02/22 11:38
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