「PPAP」は百害あって一利なし!? 日本社会に意味不明な「メールしぐさ」が蔓延したワケ【クロサカタツヤ×大泰司章】
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コロナ禍でいろいろな変革が加速している
クロサカ 一方で、そのときのために準備をしておかなければいけない。コロナが来たからといって新しいことを始めようとしても間に合いません。
大泰司 ハンコもそうしたもののひとつですよね。コロナ禍以前からハンコに対する不満はあったけど、取引先やサプライチェーン全体まで広がっていなかった。それがコロナを言い訳にして、社外に対しても堂々と「止めましょう」と言えるようになりました。
クロサカ 誰かが戦いの末に勝ち取ったものではなくて、すべての人に平等に訪れた状況だから、言わば不可抗力です。おっしゃる通り、いろいろなところで臨界点に達していたからこそ、一気に進んだんでしょう。
大泰司 「PPAP」を、導入する企業の社員だって、受信する側になってみれば、不便だというのはわかるはず。取引先から直接、言われることもあるでしょう。でも本丸はその先の、総務や情シスの人たち、さらにいえば経営者です。彼らが「『PPAP』を求めるのは面倒くさい会社」とか「未だに紙とハンコで契約するのは古い会社」というように意識改革してくれたら、私の活動は成功なんだと思います。
クロサカ コロナ禍でいろいろな変革が加速している追い風を計算に入れると、「あともう少しでゴール」なのかもしれませんね。それまでピコ太郎には黙認していただけるよう、祈りましょう(笑)。
―対談を終えて―
「『PPAP』って、ちょっとした下請けいじめに近いと思うんですよね」
普段から温厚でユーモア溢れる大泰司さんですが、ウェブ会議の画面ごしながら、この発言のときは少しだけ力がこもった印象を受けました。確かに「PPAP」は、手続きの面倒さが最大の問題です。ただ、百歩譲って、それだけであれば「みんな等しくめんどくさい」状態でもあり、(それはそれで拙いのですが)不平等は発生していません。
ところが実際は、送り手はあまり面倒を感じることがなく、一方で受け手はかなり面倒を感じるという、非対称の構造です。そしてビジネスシーン、とりわけ社外とのやりとりにおいて、送り手と受け手が対等ということはあまりなく、大抵は受発注の関係にあります。
「PPAP」のようなソリューションにお金を払うのは大企業が多いことを考えると、「PPAP」を導入する大企業からのメールを、下請け企業が受信して面倒な作業をする、という一方的な関係が構造化していることになります。実際、下請け企業から大企業へメールを送る際、「PPAP」を使わなくてもファイルは添付できる(受信側の大企業が受信を拒否することはない)ことがほとんどです。
おそらく送り手の大企業に勤める従業員は、そんな関係になっていることを想像しないでしょう。おそらく「従わないと社内で怒られるから」という理由で、何も考えずに「PPAP」を使っているはずです。そしてそこには、意図的な悪意は存在しないと思います。しかし、結果的に相手に負担をかけていて、そのことに気づけない。つまり「想像力の欠如」です。
しかし、相手の立場になって考えるべきだという話をすると、「相互理解は不可能」「他人に何を期待しているのか」みたいな物言いをする人たちもいます。実際私も、かつてSNSでそうした批判を受けて面食らったことがありますが、正直そのように想像することを諦めたほうが楽になるのかもしれません。
おそらく「PPAP」という問題提起の本質は、そうしたことにあるのだと思います。そしてそういう問題を解決することこそ、デジタルトランスフォーメーションが目指すべきゴールなのかもしれません。
なお、「PPAP」の本質は情報セキュリティではないのですが、セキュリティの観点からすれば、機密性の高いファイルの送受信は、クラウドサービスでアクセス認証をするのが、現時点では合理的な方法です。また機密性の低いものであれば、暗号化せず普通にメールに添付すればいい、ということになります。そもそも取り扱っている内容を念頭に手段を選ぶべき、ということです。
大泰司章(オオタイシ アキラ)
合同会社PPAP総研 代表社員。三菱電機や日本電子計算、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIP DEC)を経て、2020年4月より現職。電子署名や電子契約、EDI、ERP、メールやウェブにおけるなりすまし対策などのコンサルティングを行っている。
クロサカタツヤ
1975年生まれ。株式会社 企(くわだて)代表取締役。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティングや政策立案のプロジェクトに従事。07年に独立、情報通信分野のコンサルティングを多く手掛ける。また16年より慶應義塾大学大学院特任准教授(ICT政策)を兼任。政府委員等を多数歴任。
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