トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 海外  > スタンダップコメディアンと移民ラッパーの邂逅
Saku Yanagawa×Moment Joon対談

「わかる人にだけわかる」日本のお笑いは差別を助長するのか―アメリカで奮闘するスタンダップコメディアンと移民ラッパーの邂逅

「実はスタンダップコメディアンを目指していた」(Moment)

 さらに、Momentが日本の“お笑い”に対して物を申す。

「日本のお笑いを見てて僕が笑えないのは、ユーモアセンスを共有してないのもあるけど、(逆を言えば日本の笑いは)ユーモアセンスを共有している人だけのためのものと、どうしても感じてしまう。英語のスタンダップはいろんな人が対象というのが前提にある。だから『俺も対象になれるかも』ってワクワクしながら見られるんだよね」

 これに対しSakuもスタンダップコメディの懐の広さを次のように語る。

「コメディクラブ(スタンダップコメディが行われるステージ)は自分とは意見(や人種、バックボーン)が違う人と出会える場所。そんな人同士が同じジョークで笑えば、その瞬間だけは分断がなくなる。だからこんな豊かな場所は他にはないかなと思ってる」

 確かに、日本の漫才のネタの中に社会的、ジェンダー的な思想を入れ込むことは危険をはらむ。そこがスタンダップと日本の笑いの大きな違いかもしれない。

 では、韓国のお笑い界はどうなのか?

 Momentいわく、「日本みたいに単一民族神話のある国だけど、移民も増えてきている。そして、そんな10代、20代の若い移民がYouTubeなどでセルフオリエンタリズム的な自虐ネタで『今笑っているお前ら!』みたいな、カウンターを打つ笑いをして影響力を持ち始めてる。だから、彼らがやっているのはスタンダップとは違うけど、(受け入れる土壌ができつつあるから)韓国のスタンダップは未来があると思う」とのこと。

 この発言もしかり、イベントを通して意外だったのは、Momentが非常にスタンダップを始め、国内外のコメディへの造詣が深かったことだ。Momentはポリティカル・コレクトネスや言葉狩りに真っ向から立ち向かうビル・バーや2000年代のデイヴ・シャペルの大ファンで、ネタを覚えているレベルだそう。それは彼自身もスタンダップコメディアンを目指した時期があり、ネタまで書いていたからだとか。国籍問わず、国際感覚豊かな人物に、スタンダップコメディがいかに注目の芸能であるかを証明しているといえる。

 こうして、2時間に及ぶカルチャーと社会を考えるトークイベントも終了。主義や思想を笑いやラップに乗せて表現するという共通項を持つふたりだからこその意義深い内容となった。

日本ではあまり見られないスタンダップコメディに少しでも興味を持った読者は、Sakuがスタンダップコメディの普及のために執筆した『Get Up Stand Up! たたかうために立ち上がれ!』を手に取ってみてはどうだろうか。笑いとは何なのか、改めて考える機会を得られるかもしれない。

武松佑季(ライター)

1985年、神奈川県秦野市生まれ。雑誌ライター、編集者。東京ヤクルトファン。

たけまつゆうき

最終更新:2021/04/18 08:00
12
ページ上部へ戻る

配給映画