“セックス史観”で日本社会を見つめた大島渚監督 『戦場のメリークリスマス』『愛のコリーダ』
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社会的タブーとされているものにこそ、人間や社会の根源的な秘密が隠されている。大島渚監督はそんなタブーに果敢に挑み、次々と問題作を生み出した。メジャー展開するのが難しいテーマでも、作品や大島監督自身がスキャンダラスな存在になることで、人々の関心を集めた。大島監督にとって最大のヒット作となったのが『戦場のメリークリスマス』(1983)であり、世界的にその名を知らしめたのが『愛のコリーダ』(76)だった。大島監督は2013年に亡くなったが、大島監督が残した作品たちは今もスキャンダルさを振り撒き続けている。
デヴィッド・ボウイ、坂本龍一、ビートたけしが共演した『戦場のメリークリスマス』は、何度観ても不思議な感情を呼び起こす映画だ。ドラマチックなストーリーがあるわけではない。太平洋戦争中、インドネシア・ジャワ島にある日本軍の捕虜収容所という閉ざされた空間が舞台。英国軍の捕虜・セリアズ(デヴィッド・ボウイ)と収容所の所長・ヨノイ大尉(坂本龍一)との間に立ち込めるホモセクシャルな匂いを映像化したものだ。女性キャストはひとりも登場しない。
ヨノイ大尉は「二・二六事件」を起こした青年将校たちの仲間だった。日本国を歪める元凶を粛清するために仲間と一緒に決起するはずだったが、事件直前に満洲への転属を命じられ、彼は生き残ってしまった。自決しそびれた男・ヨノイ大尉が、収容所で出会ったのが美貌の英国兵・セリアズである。セリアズも心に葛藤を抱え、戦争に参加していた。死に場を求める2人の男が収容所で出逢い、抑えがたい感情で惹かれ合う。ヨノイ大尉とセリアズとの間に漂う妖しい空気によって、収容所にいる他の男たちもおかしくなっていく。
戦争でなければ、ヨノイとセリアズはもしかすると幸福な出会いを果たしていたかもしれない。しかし、戦時下の占領軍と捕虜という立場で、2人は遭遇してしまった。生か死か、愛か拒絶か。二重三重に倒錯した心情によって、男たちは奇妙な絆で結ばれていく。
ヨノイとセリアズとの禁断の愛に加え、捕虜に平気で暴力を振るうハラ曹長(ビートたけし)と通訳を命じられた捕虜・ロレンス(トム・コンティ)とのやりとりを介し、日本の精神文化と西洋的価値観との相容れなさも浮かび上がる。
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