トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 山田孝之、齊藤工、竹中直人の異能監督が共作!
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.630

山田孝之、齊藤工、竹中直人の異能監督が共作! 秘密や嘘が、退屈な日常を塗り替える『ゾッキ』

「死にたい」が口癖だった親友を救った嘘

山田孝之、齊藤工、竹中直人の異能監督が共作! 秘密や嘘が、退屈な日常を塗り替える『ゾッキ』の画像2
注目のお笑いコンビ「コウテイ」の九条ジョー(画像右)は、本作で俳優デビュー。

 本作の中核的なエピソードとなっているのが、嘘をモチーフにした「伴くん」だ。友達のいない灰色の高校生活を過ごしていた竹田(森優作)は、やはり友達のいないクラスメイトの伴くん(九条ジョー)から話しかけられる。伴くんはいつも「死にたい」と呟いている変人だが、竹田の姉には興味津々な様子だった。「竹田のねーちゃんは、芸能人に例えると誰?」などと尋ねてくる。竹田が「あややをブサイクにした感じ」と答えると、伴くんはとてもうれしそうだった。

 実は竹田には姉はいない。クラスの誰かが適当に言ったことを、伴くんは信じ込んでいる。せっかくできた友達を失いたくないので、竹田は姉がいるふりをする。伴くんの頭の中で、竹田の姉の存在感は増す一方だった。やがて、伴くんは存在しない竹田の姉に恋をしてしまう。会えなければ会えないほど、伴くんの恋心はますます大きくなっていく。もはや狂気に近いものとなった伴くんの恋心をなだめるため、竹田はさらに思い切った嘘をつくことになる。

 ロケ地となった愛知県蒲郡市は、温暖で平穏そうな小さな街だ。でも、そこで暮らす若者たちにとっては、日常は退屈すぎて、気が狂いそうになってしまう。そんな変わりばえしない日常に、刺激を与えてくれるのが嘘や秘密だった。竹田のついた嘘がきっかけで、それまで「死にたい」が口癖だった伴くんの人生は大きく変わっていく。きっと伴くんは、竹田に出会っていなければ、「ゲボ野郎!」と罵られるようなヤバイ事件を起こしたのではないだろうか。伴くんが犯罪者にならずに済んだのは、竹田と竹田のねーちゃんのおかげである。

 吉岡里帆と石坂浩二が共演したオープニングエピソード「秘密」も、なかなか味わい深い。都会での生活に失敗した前島りょうこ(吉岡里帆)は、すごすごと実家に帰ってきた。失敗した経緯を説明するのも煩わしいので、親とはあまり顔を合わせたくない。そんなりょうこに対し、縁側でまどろんでいた祖父(石坂浩二)が問い掛ける。「お前はいくつ秘密を持っている?」

 りょうこの祖父は語る。「生き物というものは、秘密がなくなったら死ぬのではないだろうか」。生きているからこそ、誰にも言えない秘密を抱える。秘密を抱えることの喜びと重み、それこそが生きているということらしい。含蓄があるような、ないような。でも、『ウルトラQ』のナレーターをやっていた石坂浩二にそう言われると、なんだかそんな気もしてくる。祖父の言葉がきっかけで、りょうこの空っぽだった心の中に名も無い小さな花がほんのりと咲くことになる。

123
ページ上部へ戻る

配給映画