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日刊サイゾー トップ  > 樋口一葉の作品を映像化した『にごりえ』
宮下かな子と観るキネマのスタアたち第9話

日本初の女流近代作家・樋口一葉の作品を映像化した『にごりえ』 現代でも考えさせられる“女性の生き方”の描き方に感動

女性の私でさえも吸い寄せられてしまいそうな色気に…

 第3話の『にごりえ』は、人気酌婦お力役・淡島千景が主人公。

 その際立つ美しさもさることながら、佇まいから漂う色気の凄さったら! 男性の前でころころ表情を変え接待する様子は、まさに女を武器にした巧みな技。しかしお力、この苦界から抜け出せまいかと、誰かの救いの手を待ち侘びているのです。

 その接客姿と、ちょっと気怠そうな様子でぼんやり煙草をふかす姿のギャップがなんとも魅力的で! 人生を諦め、どこか投げやりなようにも、しかし救い出してくれる誰かを待ち望んでいるようにも見え、絶望と希望が入り混じっているんですよね。そのどこか危なげな表情は、人を吸い付ける魅力が溢れ、こりゃあ男たちが放って置けないだろう! と納得させられます。

 女性の私でさえも吸い寄せられてしまいそうな色気を放っているのです。そんな彼女の希望となる男性が現れ、心開いていったお力でしたが、流れる水が澱み濁っていくように、不幸な最期が待ち受けている切ない物語です。

 店で働く酌婦たちの生活の様子や会話はとてもリアリティーあって少々下品。台所でのシーンでは娼婦達が男性の噂話をしながら、肌着姿でご飯をかき込んでいて、歯に詰まった食べ物を取ったりしゃっくりをしていたり。女性が集まっている時の様子って、男性が見たらきっと恐ろしいんでしょうね。

 私、女子大出身なのですが、食堂や図書館で椅子を並べて寝ている姿だったり、食堂でもクラスでもどこでも化粧している姿だったり、本当にやりたい放題の空間を見てきたので、その様子に何だか懐かしさを感じてしまいました笑) 。そういった異性のいない空間で垣間見える女性の素の部分が生々しく描かれていて、是非注目して頂きたい点です。

 そして、お力に一方的に想いを寄せる落ちぶれた亭主の妻に、杉村春子さん!お酒を飲み明かし男性を誑かす商売のお力に対し、隙間風入りそうなボロボロな家で、テキパキと笑顔で家事をこなしながら健気に内職をするも1日ほんの数銭。お力との対比がなんとも切ない……。その内職で「お盆にはお酒くらい付けられるよ」と言う杉村さんの笑顔に心締め付けられます。あの長い台詞をリズム良く、手を動かしながら話す様子はさすが名女優。堕落した亭主を捲し立てる時の早口と、すすり泣きを取り混ぜ、嫉妬と哀しみと怒り複雑に絡み合った表情も忘れられません!

 偶然か意図してのことか、3作品とも台所が登場するんですよね。『十三夜』では、母が「奥様がこんな汚い台所なんかに」と娘を部屋に戻そうとする姿。また、娘が泣き出し思いを吐露するのもこの場所です。『大つごもり』では台所で女中と女主人の身分の差を感じさせられる場となっていて、『にごりえ』では酌婦達が女の素の姿の生々しさが表れています。

 現在よりもはっきり境界線を持って〝女性が立つ場所〟であった台所。そこで、様々な立場の女性達の苦悩や本音が垣間見えるよう作られているのは、やはり意図してのことなのかもしれません。

 久しぶりに時代を遡った作品を観てみましたが、明治時代を生きる女性たちに励まされ、心満たされました。ああ、やっぱりモノクロ映画って美しい!今と異なる境遇の女性たちの生き様を、映画を通し時代を越えて観られるって、本当に素敵なことですね。

 見どころ満載な3作品、明治時代を生きる様々な女性たちの生き様が描かれた、樋口一葉の小説の世界観を、素晴らしい脚本とそれを体現する豪華な役者たち、そして3作品異なる効果的な見せ方によって表現されています。

 樋口一葉がお好きな方の期待を裏切ることなし!「小説最後まで読めなかったな~」なんて方にも、胸を張っておすすめできる一品です。

宮下かな子(俳優)

1995年7月14日、福島県生まれ。舞台『転校生』オーディションで抜擢され、その後も映画『ブレイブ -群青戦記-』(東宝)やドラマ『最愛』(TBS)、日本民放連盟賞ドラマ『チャンネルはそのまま!』(HTB)などに出演。現在「SOMPOケア」、「ソニー銀行」、「雪印メグミルク プルーンFe」、「コーエーテクモゲームス 三國志 覇道 」のCMに出演中。趣味は読書、イラストを描くこと。Twitter〈@miyashitakanako〉Instagram〈miya_kanako〉

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【アミューズWEBサイト公式プロフィール】

みやしたかなこ

最終更新:2023/02/22 11:39
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