日本初の女流近代作家・樋口一葉の作品を映像化した『にごりえ』 現代でも考えさせられる“女性の生き方”の描き方に感動
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夫の理不尽に耐える妻…実家からも思い直すよう諭され…
第1話の『十三夜』は、亭主との離縁を決意し実家に戻ったおせき(丹阿弥谷津子)でしたが、父親の説得で泣く泣く帰され、その道中、偶然幼馴染の男性と再会するという物語。
堪えてきた思いを涙ながらに打ち明けるおせきに、田村秋子さん演じる母親は同情するのですが、対して父親は「お前の主人の七光で家も恩に着ている」と言い、亭主の機嫌を取るのが妻の役目だと冷静な口ぶりで説得をします。今と異なるこの時代の結婚観と男女差別、それに耐えるしかない女性たちがどれほど息苦しいものか。しかし、そう忍耐する女性たちが美しくも感じられ、大きな満月に照らされる、夜の街並みのひやりと冷たい空気感がぴったりなのです。
明暗のコントラストも見事で、モノクロ映画の良さが最大限に生かされています。幼馴染と別れるラストシーンは、2人のシルエットが映し出されていて、表情が見えなくとも伝わる切なさと幻想的な美しさ。
母親役の田村秋子さんが見事で、娘の帰りに、にかーっとお歯黒の歯を見せ喜ぶも、娘の違和感を徐々に感じていく表情だったり、涙する娘に同情し涙ながらにつらつら思いを吐き出す感情的なシーンは圧巻。見事な抑揚の付け方と、同性として娘の苦悩に寄り添う母の姿に是非注目して頂きたいです。
第2話の『大つごもり』では、女中として懸命に働く主人公みね役・久我美子さんの、純情な素朴さと曇りなき瞳の美しさに見惚れていると、長岡輝子さん演じる奉公先の女主人の性格の悪さに啞然とさせられます!まあこの女主人の性格の悪いこと!井戸の水が入った桶を運んでいる最中に転んで怪我をしたみねに、この女主人がかけた言葉が「気をつけておくれよ。お前たちときたらいくら言っても物を大事に扱うってことを知らないんだから!」ですよ、信じられますか!人の心配よりも自分の家の物を心配する最低な女主人。私だったら桶ぶん投げてすぐに辞めてやりますけど!みねは辛抱強く、文句も言わずに働き続けます。
そんなみねが、貧しい育ての義父母に貸してほしいと頼まれた2円を、この奉公先の収入からくすねてしまう物語。みねの心情を、音楽やカメラワークを効果的に活用し、サスペンスを観ているようにハラハラさせられます……!
ヒロインである久我美子さんも素敵ですが、見事な性悪女主人を演じていらっしゃった長岡輝子さんも印象的。つらつらとリズム良く文句を告げるその言い回しはもちろん、例えば、みねたちのいる台所を覗きに来たシーン。とても寒そうに腕を前に組み登場してきて文句を吐き捨てると、身震いをし肩をすくめて去っていくんです。
女主人が普段いるのは、みねが用意した火鉢のある暖かい部屋。このみねたち女中が普段働く台所がどれだけ寒いかと、そのちょっとした身ぶりから想像が膨らまされるのです。女主人と女中の身分の差を感じる瞬間であり、女主人が悪く見えることで、女中みねの健気さが一層増し好感度が増します。
ちょっとした仕草を見せることで、自分と相手を引き立たせる……これぞヒール役だ!と唸らされました。
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