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日刊サイゾー トップ > エンタメ > お笑い  > 売れっ子芸人が抱えるネタと精神のジレンマ

ファンのアンケートがお笑い芸人のメンタルを追いこむ… 元芸人が解説する売れっ子が抱えるネタと精神のジレンマ

5分間99/100人が笑わない地獄絵図

 ライブやイベントでネタを披露する。その会場にお客さんが100人いたら100人全員笑わせるというのが究極の目的であり、どんなに苦労して作ったネタだろうが1人しか笑わないネタは捨てるしか無いのだ。さらにネタには持ち時間が決まっており、5分なら5分間ネタをやりきらなければならない。100人お客さんがいる会場で1人しか笑わないネタだとしても、5分間やりきるのだ。漫才なら最悪ネタを途中で変えることも可能だが、コントの場合、衣装やセット、暗転のきっかけになるオチ台詞の関係でネタを変えることは出来ない。想像してほしい、5分間99人が笑わない地獄絵図を。

 この重圧に負けてしまい、精神的ダメージを負って芸人をやめる若手芸人も少なくはない。

 これも憶測にすぎないが、加賀さんのような練り上げられたコントを作るタイプの芸人は、往々にしてもともとお笑いが好きでこの世界に入ったというパターンが多い。

 芸人になってしまうと、テレビ番組を視聴することひとつとっても、今までは息抜きや単純な娯楽として見ていたのに、いつの間にか研究材料となり、「この芸人はこうボケるのか」「この司会者の場合は大声で反応した方がリアクションしてくれる」などを常に頭で考えながら見てしまう。

 これは芸人に限った事ではない。料理が好きで調理師になれば、プライベートで外食しても味付けやレストランの内装を気にしてしまうし、本が好きで作家になれば、他の著者の作品を読んでも、自分にない表現力やひらめきや刺激を感じ、気付けば次の作品の題材を考えているといったこともありそうだ。

 結果”好きなことを仕事にするのは果たして幸せなのか”という迷路のような問題に辿り着いてしまう。

 話を広げ過ぎてしまったが、芸人になるという事は、”ストレス解消”の為のツールだった『笑い』がいつの間にかビジネスのツールになってしまい、純粋に笑う事が出来なくなり、なかなかハードな人生を送ることになる。真面目でお笑い一筋な人ほど、このパターンに陥りやすい。

 何か没頭できる趣味が見つかれば御の字なのだが、お笑い以外に依存出来るものが見つからなかった芸人は残念ながら心の病みに浸食されてしまう。あれほど大好きだったお笑いによって心を蝕まれる。なんとも切ない話である。

 前述したように「5人に1人が一生のうちになんらかの精神疾患になる」という現代。

 ましてや今はコロナ禍により、人に会う事を制限され、孤独な日々を送る事を余儀なくされている。仕事のプレッシャーに追われ、人間関係に疲れ、友達と居酒屋で酒を酌み交わし愚痴って発散することも出来ない今、自分がいつバランスを崩すかは自分自身でもわからない。

 この話は他人事では無く、いつ自分がなってもおかしくないのだ。

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