ポルノがセックスレスを助長している?──Pornhub動画削除で考えるポルノ視聴と男性性の劣化の関係(前編)
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──近年、欧米ではポルノ批判が顕著だ。理由はPornhubなどでオンラインポルノを視聴することで、現実でセックスを求めなくなり、さらに実際にセックスをしたところで、ポルノ視聴以上の快楽は得られず、そのことで男性性が弱体化するからだというが、果たして……。(サイゾー21年1月号「男性学」特集より一部転載)
2020年12月14日、インターネットに激震が走った。大手ポルノ動画サイトPornhubが、アップロードされていた1000万本以上の動画を一斉に削除したのだ。突然の事態に世界中のポルノ愛好家は阿鼻叫喚し、SNS上はリンク切れになったブックマークを泣く泣く削除する人々の報告であふれた。
年間アクセス数420億(2019年調べ、公式発表)を誇る業界最大手の一角が、なぜこのような措置に踏み切ったのか? きっかけは、アメリカの有力紙「New York Times」に名指しの批判記事を掲載されたことであった。
「The Children of Pornhub」と題された当該記事によると、Pornhubは「子どもに対する性的虐待、リベンジポルノ、盗撮、人種差別、性差別、そして暴力的な動画であふれている」とし、性犯罪に加担して金儲けをしていると指摘。批判の矛先は有料サービスの決済に利用されている銀行やクレジットカード会社にも向けられ、これらの企業がPornhubとの提携を解消したことが動画の大量削除へつながったとされている。
今後はPornhub以外のウェブサイトでも同様の措置がとられるのでは、と予測する声も多く、無法状態であったネットポルノに、ひとつのパラダイムシフトが起きようとしている。
また、違法動画への対応に加え、欧米では数年前からポルノサイトに対し「男性を劣化させている」「セックスレスを助長している」といった批判の声が強まってきているという。一体どういうことだろうか? また、なぜここにきてポルノに対する風当たりが強くなってきているのか? 専門家の意見を聞きつつ、考察していきたい。
バーチャル世界の性に魅力を感じる世代
まず「ポルノが男性を劣化させている」という主張についてだが、心理学者のフィリップ・ジンバルドーは17年に日本でも出版された『男子劣化社会』(晶文社)の中で、こう述べている。
「外界から孤立した状態でのポルノの過剰視聴が引き起こす悪影響は、現実にはセックスをしたことがない若者において一段と深刻になる。なぜか? それは彼らがセックスを恋愛や感情、親密さ、コミュニケーション、譲り合いや分かち合い、愛撫やキスさえも関係のない、単なる体のパーツの機械的な配置による身体的行為だと見なしてしまうからだ。すると、セックスは非人間的な『やるコト』になり、男性にとっては相手の上または中でコトを終えるやいなや何のあとくされも残らない相手こそが最も望ましいセックスパートナーになる」
同書によると、ネットポルノの発達、ネット利用者の低年齢化、そしてネットに接続している時間の長期化によって引き起こされる「感情の未発達と人と関わらない習慣のコンビネーション」が、このような状況に拍車をかけているという。
実際に「多くの男性が成人後も子どもから脱しきれず、女性を同等の人間、友達、パートナー、恋人、ひいては大切な妻としてさえ関わることが困難になっている。結果的に女性といるよりも男同士でいる方を好むようになった人たちもいる。調査を通して私たちは、今の若い男性の多くが長期的に恋愛を維持することはもとより、結婚にも、父親になることも、自分の家族を作ることにも興味がないことを発見した」としている。伝統的な「男らしさ」の概念から見れば、これは確かに劣化といえるだろう。
次に「ポルノがセックスレスを助長している」という点については、19年に米誌「The Atlantic」に掲載された「世界から『セックス』が枯渇する日」という長編ルポにおいて、記事中に登場する日系米国人ジャーナリストは、日本における女性を口説く行為に懐疑的であるとされる『草食系男子世代』に言及し「この世代は、予測不能な要求をしてくる現実女性よりも、バーチャル世界の性に魅力を感じる」と解説している。その魅力の源泉はどこにあるのか? 記事では、こう述べられていた。
「日本はアダルトビデオの制作と消費において世界的にトップクラスであり、新たなジャンルも次々と開拓してきた。また、高性能のセックス・ドールでも世界の先端をいく。しかしここで注目すべきは、『性器を刺激するのに2人は必要ない』という前提が多くあるところだ」
それでは、実際に欧米では、日本を反面教師にすべきという論調が出るほどセックスレスが進行しているのだろうか?
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