ロック史で最も悪名を馳せた北欧バンドの伝説! 悪魔崇拝が招いた結末『ロード・オブ・カオス』
#映画 #R18 #ロード・オブ・カオス #メイヘム
悪魔崇拝を本気で信じ込んだファンが起こした悲喜劇
悪魔を崇拝し、キリスト教を否定する「メイヘム」は、平穏な街で生まれ育った若者たちには最高に刺激的な存在となる。ヨーロニモスが開店したレコード店を拠点に、インナーサークルと称する悪魔崇拝主義グループが誕生する。ヴァーグ(エモリー・コーエン)も「メイヘム」の熱烈なファンで、レコード店に足繁く通う。この2人の出会いが、悲劇・第二章の始まりだった。純真なヴァーグは、ヨーロニモスたちが本気で悪魔崇拝していると信じ込む。自分も彼らのようになりたい。もっと邪悪なことをやって、認められたい。1992年、ヴァーグは由緒ある教会に次々と火を放つようになる。インナーサークル内での狂ったチキンレースは、ブレーキが効かないほどスピードが上がっていく。
教会連続放火事件はマスコミで大々的に報道され、ヨーロニモスたちもヴァーグのことを認めざるをえない。さらにインナーサークルのメンバーが、同性愛者の男性をナイフで刺殺。ヴァーグはナチス信者であることを自称し、自宅に新聞記者を招き、一連の事件の真相を告白する。常軌を逸したヴァーグは、それまでリスペクトしていたヨーロニモスのことを「口だけ番長」と蔑むようになっていく。両者の関係性は逆転してしまう。
平凡な家庭で苦労なく育ったヨーロニモスにとって、悪魔崇拝もキリスト教の否定もあくまでもプロレス用語でいうところの“アングル”だった。バンドの注目度を上げるための演出だった。たまたまデッドの自殺現場に遭遇し、バンド仲間に対する彼なりの悪趣味な弔い方が予想以上の反響を呼んだに過ぎない。だが、あまりにも無垢だったヴァーグは本気で彼の邪悪な思想を信じ込み、虚構と現実とのボーダーを突き破ってしまう。その結果、ヨーロニモスは25歳の若さでその生涯を終えるはめに。ブラックジョークのような悲劇によって、「メイヘム」は伝説のバンドとして語られ続けている。
本作を観ながら、若松孝二監督の力作『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08)を思い出した。学生運動が盛り上がる中、若者たちは日本でも革命が起きると本気で信じていた。革命熱にうなされた若者たちは山へ篭り、やがて仲間同士で粛清しあう内ゲバを始める。その場にいた若者たちは、血の惨劇を誰も止めることができなかった。虚構と現実とを隔てる壁が壊れてしまう恐ろしさを、どちらの実録映画も克明に描いている。
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