無理に打たなくていい 10年でピリオド――HUNGER(GAGLE)が語った3.11のこれまでとこれから
#インタビュー #ヒップホップ #東日本大震災 #HUNGER #GAGLE
「震災から10年」は区切りではない
――音楽活動をストップし、ボランティア活動に専念していた時期もあり、「この経験は音楽制作につながってくる。悪いことに転じることはない」と話されていましたが、実際どのようなフィードバックがあったのでしょうか?
HUNGER 震災から約2カ月後(5月15日@横浜ベイホール)、録音物であった「うぶこえ」を初めてライブで披露したときがあったんですが、全然歌えなかったんです。恥ずかしい話ですが、レコーディングしたときとはまったく異なる感情があふれてしまい、泣いてしまって。でも、その時の感情が新たな制作意欲につながったし、自分の中で新しい物語が展開されていくような感覚もありました。
――また、「いつものような毎日を送りたい」「能天気なラップをすることへの抵抗感」といった話もされていましたが、音楽的視点では、いつからいつものような制作に戻れたのでしょうか?
HUNGER 正直、戻れていないんじゃないかな、って感じているんです。震災以降、確実に音楽制作に対するモードに変化が起きたと思う。パーティーソングはラップできると思うんですよ、それは歌詞の内容が前向きであるから。でも、バカバカしい内容というか、底抜けにただひたすらユーモアだけを詰め込んだ言葉は出てこなくなったかもしれません。もちろん、そこには年齢的な問題もあるだろうし、一概に震災だけが関係しているとは言い切れない。ふと思ったりするんです、あの時、もし震災がなかったら自分はどんな方向を向いたラッパーになっていたんだろう、って。
――それが一種のジレンマにつながることは?
HUNGER むしろジレンマすらないんですよ。その感覚はGAGLEでもソロでも同じで、去年の7月にソロアルバム『舌鼓 / SHITATSUZUMI』 をリリースしたんですが、打ち込みのキック(ドラム)を本物の和太鼓で表現した作品だったので、どこかはっちゃけたイメージに感じるかもしれないんですけど、伝統的な音色や文化的解釈に気がつくと、おのずと落ち着き払った感覚に着地するというか。GAGLEのファースト(『BUST THE FACTS』/01年)を聴き直すと、「底抜けに明るいな~!」って感じるんですけど(笑)、それは若さもあるだろうし、誰しも音楽活動を続けていく過程で変化が訪れるときはあると思いますからね。
――ある種、必然でもあった変化を経て、先ごろ東日本大震災から10年の節目となる3月8日に「I feel, I will」を配信しましたが、制作背景はどのようなものだったのでしょうか?
HUNGER 去年の8月に『mononook(モノノーク)』というネットラジオ番組を企画されている小森はるかさんから「『うぶこえ』をプレイさせてもらっていいですか」と連絡があったんです。それは震災から丸10年を迎えるずいぶん前のこと。その時点から10年を考えようとしている人たちがいた。世の中的には“10年”というのはわかりやすい数字的な区切りだけど、被災した人たちにとっての節目、区切りの意識は結構複雑だったりする。それは『HOPE FOR project』(※2012年から始まったプロジェクト。毎年3月11日に、特に被害が甚大であった宮城県・荒浜海岸の慰霊祭に参列した人々と、花の種を入れた風船を空へ飛ばすイベント。アーティストや文化人によるライブや誌の朗読なども行われており、HUNGERも参加している)も同じで、誰しも常に頭の片隅にはあって、自問自答を繰り返しているような感覚なんです。
そういったことから、直前になって悩むより先んじて考えたかったので、半年前くらいから漠然と構想はあったんですが、月命日である2月11日になって、「来月で丸10年か」という気持ちはあったものの、どこか実感は湧かなくて。そんなとき、2月13日の夜に大きな地震があって、そこですぐ状況をメモして、奮い起こされる気持ちになり、制作に着手した形です。結果的に短期間の制作にはなったんですが、3月2日には録音して11日に発表することができました。
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