「愛する人が亡くなっても、手を止めてはいられない」99歳の新藤兼人監督が日本人に残した『一枚のハガキ』
#映画 #俳優 #キネマ旬報
こんばんは! 宮下かな子です。先日祖父の命日だったのですが、ちょうど夢に出てきたんです。「あれ? じいちゃんまだ生きてたんだ! ごめん!」と思って目が覚めました。じいちゃんすごく良い笑顔でニカーッと笑っていて、もしかしたら会いに来てくれたのかなあ? なんて思っています。
今月11日で、東日本大震災から10年がたちましたね。地元の福島県いわき市で、中学の卒業式を終えて友人たちと遊びに出かけていた、当時15歳の私。警報があちこちで鳴り、我先にと押しのけて外に出ようとする人たちの姿をすごく冷静に見ていたこと、押された人が階段でドミノ倒しになったこと、ガラスが割れる音と女の子の悲鳴、友人の表情。あの時の非日常な光景は、今でも鮮明に覚えています。
心身に深い傷を負っていらっしゃる方、まだまだたくさんいらっしゃると思いますが、この10年で、街も人も、大きく変化しています。私も、帰省するたびに街の復興活動の様子に驚かされ、先日もニュース番組に出演していた地元の人たちの前向きな姿に、とても励まされました。少しでも良いから、私も仕事を通して誰かを励ませたらなぁ、と思います。
あ! 12日より、私も出演させていただいている映画『ブレイブ-群青戦記-』が全国の映画館で公開中です! 地元の映画館でも上映されているのですが、この映画館、津波の被害を受けた港に新設されたんですよ。映画館が近隣になかった地域だったのでうれしいですし、何よりこうして自分が出演している作品を地元の方々に観てもらえるって、すごく感慨深いです。お時間ありましたら皆さまも是非、ご覧ください!
10年前のことを考えていたら、この年にキネマ旬報ベスト1位に輝いた作品を観てみたいと思い、今回は新藤兼人監督『一枚のハガキ』(2011年、東映)を選びました。時代は太平洋戦争末期。命の尊さを考える今にふさわしい作品です。
〈あらすじ〉
太平洋戦争末期に招集された松山啓太(豊川悦司)ら100人の兵士は、上官によるクジ引きで運命を決められた。生き残ったのは松山含め6人のみ。帰国した松山は、亡き戦友・森川定造(六平直政)に託された一枚のハガキを手に、差出人の妻・友子(大竹しのぶ)を訪ねに行く……。
新藤監督自ら、「映画人生最後の作品にする」とおっしゃって挑んだ作品だったそうで、公開の翌年、老衰により満100歳で死去されています。この作品、新藤監督の実体験をもとにした物語で、自身が生き残った6人の兵士うちの1人だそう。戦争を体験した新藤監督だからこそ語れるリアルを、後世に残してくださった渾身の遺作です。
物語は、100人の兵士たちがきれいな坊主頭を揃え、整列している様子から始まるのですが、その中に主人公、松山啓太を演じる豊川悦司さんが並んでいます。豊川さんがアップで映し出された時の、隠しきれない存在感といったら! 真っ直ぐな瞳から、揺るぎない意思の強さが感じられます。
さて、そんな主人公松山が、2段ベットを共有し仲良くしていた森川定造に一枚のハガキを見せられます。定造の妻・友子が書いたこのハガキ。これがきっかけとなって物語が進んでいくのですが、ハガキの文章は、たったの1行だけ。しかしこの1行が凄いんです!
〝今日はお祭りですが あなたがいらっしゃらないので何の風情もありません。〟
これを見た松山は、何度も声に出して読むのですが、日本人の心を掴む、すごく素敵な一文だと思います。
直接的に、夫に会えない寂しさを主張するのではなく、〝何の風情もありません〟で留めることによって、かえってその抑えている心情が強調されているように感じられるんですよね。
お祭りの賑やかな空気の中、いつにも増して孤独を感じている友子の姿が彷彿させられて、とても切ない。もっともこの時代、手紙を出すにも一苦労。戦時中の軍事郵便の検閲は厳しく、自由に書くことができない状況ではありましたが、この心情を抑えた表現こそ、日本人のつつしみ深い品格だと感じます。まだ登場していない友子の、人となりが垣間見える瞬間でもあるんです。
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